ブリティッシュ・トラッド ① フェアポート・コンベンション(Fairport Convention)

1977年から78年当時、
70年代前半のS.S.W.や、
ウッドストック系のアーティストを熱心に聴き始めた頃。

「(ニュー)・ミュージック・マガジン」等の雑誌広告で、
しょっちゅう目にして、気になっていたのが、

L.A.の夜景を背景に、
“LIVE”という文字が
斜めに大きく書かれた

レコード・ジャケット。

アイランド・レーベルから、
最後のリリースとして77年に発売された、
フェアポート・コンベンション(Fairport Convention)
『Live at the L.A. Troubadour』
70年9月4日のライブ盤でした。

スタジオ盤は、当時日本盤も出ている物も有り、
その後も見かける機会は多かったのですが、
このライブ盤は、
レーベルとの契約上の枚数合わせで
リリースされた様な性格の盤
のせいか、
すぐに入手困難になっていました。

と言う訳なので、実際に音を聴いたのは、
収録曲を入れ替えて
何曲かの追加曲を含む形でCD化されてから…

ちょっとややこしくて、
1990年ハンニバル(Hannibal)レーベルから
リリースされたCDには、
「Sir Patrick Spens」「Staines Morris」「Battle of the Somme」
3曲が新たに追加され、
「Bonnie Kate / Sir B. McKenzie’s」
「Poor Will and the Jolly Hangman」「Yellow Bird

3曲未収録
さらに、オリジナルLPとダブる5曲も、
リミックスエディットされたバージョンです。
2001年には、アイランド(Island)レーベルから、
「Bonnie Kate / Sir B. McKenzie’s」と、
「Yellow Bird」
2曲を追加して再々発。
結局、「Poor Will and the Jolly Hangman」は、
いまだ再発されていません

このオリジナルLPのジャケットのインパクトと、
渋谷のブラックーホークの広告や、
ミニコミ『スモールタウントーク』の記事などから、

“ブリティッシュ・トラッド(British Trad)”

というジャンルを知る事になります。

話は前後しますが、中学生の頃。

ベルウッド・レーベルから、
林静一のイラストの変形ジャケット
で発売された、
あがた森魚のメジャー第1作
『乙女の浪漫』
(それ以前に『蓄音盤』
という自主製作盤を出しています)

その中の「大道芸人」と言う曲。

7曲目・27分あたりから

はちみつぱいの演奏だったはずですが、
イントロやブリッジに使われる
印象的なギターとフィドルのフレーズ
が、
ずっと気になっていたのですが…

実は、フェアポート・コンベンション
「Walk Awhile」元ネタだった事を後に知ります。

当時の、アメリカのウッドストック人脈
70年代前半のS.S.R.や、ザ・バンド
といった嗜好から、
自然な流れで最初に聴く事になったのが、
フェアポートの1970年のアルバム

『フル・ハウス(Full House)』

当時、アメリカ盤で入手した為、
ジャケットの荒い紙質や、
内ジャケットのメンバーの写真など、
まるで、“ブリティシュ・スワンプ”
のアルバムの様でした…

サンディ・デニー
(Sandy Denny)
と、
アシュリー・ハッチングス
(Ashley Hutchings)
が、
抜けた後男性5人
制作したアルバム。

リチャード・トンプソン
(Richard Thompson)
ギター、ボーカル

サイモン・ニコル
(Simon Nicol)
ギター、ボーカル

デイヴ・スウォーブリック
(David Swarbrick)
フィドル、マンドリン、ボーカル

デイヴ・ペッグ
(Dave Pegg)
ベース、バックボーカル

デイヴ・マタックス
(Dave Mattacks)
ドラムス

歴代最強メンバーと言われる布陣ですが、
作品としては、このアルバムと、
前述のトルバドールでのライブ盤だけしか残していません。

サンディ・デニーと、
アシュリー・ハッチングスが在籍していた
『アンハーフブリッキング(Unhalfbricking)』(1969年)
『リージ・アンド・リーフ(Liege & Lief)』(1969年)
では、古典伝承音楽としてのトラッドへの接し方に、
アカデミックな部分が先行していて、
バンド本来の “ロック” 的な資質との融合の度合いに
多少中途半端さを感じていましたが、

男性5人で製作されたこの作品は
ザ・バンドへのイギリスからの返答と言っても良い、
トラッドを消化した上での、
“ロックバンド” のアルバムに仕上がっています。

このアルバムでは、やはりこの曲!!

「スロース(Sloth)」

曲の出だしでは、何となくザ・バンドの名曲
「ウエイト(The Weight)」を感じさせますが、
中盤のインプロは、まるで、
73年~74年デビッド・クロス(David Cross)がいた頃の、
キング・クリムゾン(King Crimson)ライブのような緊張感が有ります。

余談ですが…
もし、ロバート・フリップ(Robert Fripp)が、
クラシック畑のクロスではなく、
スウォーブリックをメンバーに選んでいたら…
74年のツアー後に脱退せず、
レコーディングに参加していたら…
『Red』は、どんな音になっていたんだろう??
特に「Starless」なんか…

あと、この頃のフェアポートと言えば、
69年の前作、
『リージ・アンド・リーフ(Liege & Lief) 』

から、17世紀から伝わるバラッド

「マティー・グローブス(Matty Groves)」

“バラッド(Ballad)” とは、
イギリスの物語性や寓話性のある伝承歌
フランス語では “バラード” となりますが、
現在のスローな曲調を表す表現とは別物です。

バラッドは、ほとんどが破局で終わるのですが、
この曲も、その例にもれず

貴族の妻との不倫した、低い身分の青年
マティー・グローブス(Matty Groves)。
夫であるダーネル(Lord Darnell)に、
その妻もろとも串刺しにされ、
貴族であった妻との身分の差により、
墓に葬られる時でさえ冷遇される…

という内容です。

『リージ・アンド・リーフ(Liege & Lief) 』では、
サンデー・デニーボーカルが、
オーソドックスなバラッドの歌唱方では無い
感情移入したロック寄りのものになっています。

トラッドを、女性が伝統的な歌唱方で歌う場合、
民衆の中から生まれた伝承歌を、
女神が高い位置から
その民衆たちの世界を俯瞰しながら
歌っているイメージを感じる事があります。

ここでのサンデーの歌唱は、もっと民衆寄りで、
地に降り立ったミューズの唄 
と言ったところでしょうか。

対して、『Live at the L.A. Troubadour』では
リチャード・トンプソンがボーカル

男性が唄った場合
特に “ロックバンド” としてのフェアポートでの、
リチャード・トンプソンのボーカルには、
更に民衆寄りなパワーを感じます。

別項のソウル・フラワーの「霧の滴(FOGGY DEW)」も、
アイルランドのトラッドですが、
アルバムでの内海洋子の原詩で唄うバージョンより、
ライブでの中川敬のボーカルに
さらにロックぽいパワーを感じます。

フェアポートのメンバーの入れ替わりは激しく
70年代だけでも、これだけの
“ファミリー・ツリー”
が出来上がってしまいます。

個人的には、
『フル・ハウス(Full House)』以降、
リチャードトンプソンがバンドを離れてからの作品は
あまりしっかり聴いていません…

と言う事で最後に、70年までの5作品曲目参加メンバーを、
簡単に紹介しておきます。

『フェアポート・コンヴェンション
(Fairport Convention)』(1968)

A-1 Time Will Show The Wiser
A-2 I Don’t Know Where I Stand
A-3 If (Stomp)
A-4 Decameron
A-5 Jack O’Diamonds
A-6 Portfolio
B-1 Chelsea Morning
B-2 Sun Shade
B-3 The Lobster
B-4 It’s Alright Ma, It’s Only Witchcraft
B-5 One Sure Thing
B-6 M1 Breakdown

Vocals. Electric Guitar : Richard Thompson
Vocals. Electric Guitar : Simon Nicol
Lead Vocals : Judy Dyble
Lead Vocal : Ian Matthews
Bass : Ashley Hutchings
Cello : Clare Lowther
Percussion. Violin : Martin Lamble

『ホワット・ウィー・ディド・オン・アワ・ホリデイズ
(What We Did on Our Holidays)』(1969)

A-1 Fotheringay
A-2 Mr. Lacey
A-3 Book Song
A-4 “The Lord Is In This Place….How Dreadful Is This Place.”
A-5 No Man’s Land
A-6 I’ll Keep It With Mine
B-1 Eastern Rain
B-2 Nottamun Town
B-3 Tale In Hard Time
B-4 She Moves Through The Fair
B-5 Meet On The Ledge
B-6 End Of A Holiday

Vocals. Electric Guitar : Richard Thompson
Vocals. Electric Guitar : Simon Nicol
Lead Vocals : Judy Dyble
Lead Vocal : Ian Matthews
Bass Guitar : Ashley Hutchings
Drums : Martin Lamble

『アンハーフブリッキング
(Unhalfbricking)』(1969)

A-1 Genesis Hall
A-2 Si Tu Dois Partir
A-3 Autopsy
A-4 A Sailor’s Life
B-1 Cajun Woman
B-2 Who Knows Where The Time Goes
B-3 Percy’s Song
B-4 Million Dollar Bash

Vocals. Electric Guitar : Richard Thompson
Vocals. Electric Guitar : Simon Nicol
Lead Vocals : Sandy Denny
Bass Guitar : Ashley Hutchings
Drums : Martin Lamble

『リージ・アンド・リーフ
(Liege & Lief)』 – (1969)

A-1 Come All Ye
A-2 Reynardine
A-3 Matty Groves
A-4 Farewell, Farewell
B-1 The Deserter
B-2 (Medley)
The Lark In The Morning
Rakish Paddy
Foxhunter’s Jig
Toss The Feathers
B-3 Tam Lin
B-4 Crazy Man Michael

Vocals. Electric Guitar : Richard Thompson
Vocals. Electric Guitar : Simon Nicol
Lead Vocals : Sandy Denny
Bass : Ashley Hutchings
Drums : Dave Mattacks
Violin : Dave Swarbrick

『フル・ハウス(Full House)』(1970)

A-1 Walk Awhile
A-2 Dirty Linen
A-3 Sloth
B-1 Sir Patrick Spens
B-2 Flatback Caper
B-3 Doctor Of Physick
B-4 Flowers Of The Forest

Vocals. Electric Guitar : Richard Thompson
Vocals. Electric Guitar : Simon Nicol
Violin : Dave Swarbrick
Bass : Dave Pegg
Drums : Dave Mattacks

69年から70年までの“ファミリー・ツリー”
に関わるメンバーには、

ジュディ・ダイブル (Judy Dyble)

イアン・マシューズ (Iain Matthews)

サンディ・デニー (Sandy Denny)

と言った重要なアーティストが含まれますが、

次回は、イングランド・トラッドの求道者
(敢えてブリティッシュ・トラッドでは無く)

アシュリー・ハッチングス (Ashley Hutchings)

を軸に紹介したいと思います。

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