ブリティッシュ・トラッド ③ アルビオン・バンド(The Albion Band)

Shirley Collins And
The Albion Country Band
『No Roses』

フェアポート・コンベンション(Fairport Convention)で、
１９６８年から６９年までの４作

スティーライ・スパン(Steeleye Span)で、
１９７０年から７１年までの３作

それぞれに作品を残した
アシュリー・ハッチングス (Ashley Hutchings)は、

スティーライ・スパンに在籍中の７１年、
純粋に “イングランド” のトラッドを演奏することを目指した、
妻であるシャーリー・コリンズ(Shirley Collins)
をボーカルに据えたプロジェクト、

“シャーリー・コリンズ ＆ アルビオン ・カントリー・バンド
(Shirley Collins And The Albion Country Band)”として、

１９７１年に、『ノー・ローゼズ(No Roses)』を発表。

リチャード・トンプソン(Richard Thompson) : ギター
サイモン・ニコル(Simon Nicol) : ギター
デイヴ・マタックス(Dave Mattacks) : ドラムス
という、フェアポートのメンバーに加え

イングランドの伝承ダンス・ “モリス” の音楽に精通した、
アコーディオン奏者
ジョン・カークパトリック(John Kirkpatrick)

英国フォーク・リヴァイヴァルの第二世代といえる、
シンガーで、フィドル奏者
ニック・ジョーンズ(Nic Jones)
と言ったベテラン勢

さらに、アヴァンギャルド系のサックス奏者
ロル・コックスヒル(Lol Coxhill)
まで、総勢２５人のメンバーを迎えて製作されました。

Ａ面の１曲目「Claudy Banks」

リチャード・トンプソンと、
サイモン・ニコルの
エレクトリック・ギターと、

ハッチングスの
エレクトリック・ベースに、

ドラムスに
ロジャー・パウエル(Roger Powell)
を加え、

デイブ・ブランド(Dave Bland)が、
古楽器であるコンサーティナ(Concertina)

ロル・コックスヒル(Lol Coxhill)が、
サックスで参加した

“エレクトリック・トラッド”

Ａ面の４曲目のマ－ダー・バラツド
「Murder Of Maria Marten」

リチャード・トンプソンと、
サイモン・ニコルの
エレクトリック・ギターに加え、
ドラムスもフェアポートの
デイヴ・マタックス。

ニック・ジョーンズが
フィドルで参加。

フェアポートでのサンディ・デニーの感情移入した歌唱とは違う
凛としたシャーリー・コリンズのボーカルは、
マーダー・バラッドのダークな部分を、さらに際立たせています。

Albion Country Band
『Battle Of The Field』
(1976 – Recorded in 1973)

『ノー・ローゼズ(No Roses)』の発表後、

“Albion Country Band” は、

独立したバンドとして、
しばらくの間活動を続ける
ことになります。

第１期のメンバー
ロイストン・ウッド(Royston Wood) : ボーカル. パーカッション
スティーヴ・アシュリー(Steve Ashley) : ハーモニカ. ホイッスル
スー・ドラハイム(Sue Draheim) : ヴァイオリン

このメンバーでは、ほとんどバンドとして機能していなかったようで、
すぐに第２期メンバーに移行。

マーティン・カーシー(Martin Carthy) : ボーカル. ギター
サイモン・ニコル(Simon Nicol) : ボーカル. ギター
ジョン・カークパトリック(John Kirkpatrick) : ボーカル. アコーディオン
アシュリー・ハッチングス (Ashley Hutchings) : ボーカル. ベース
スー・ハリス(Sue Harris) : ボーカル. オーボエ. タルシマー
ロジャー・スワロー(Roger Swallow) : ドラムス

このメンバーで
１９７３年に録音されたのがこの作品。

しかし、バンドはその年の８月には解散…

ハッチングスは、７４年から７５年にかけて、
妻シャーリー・コリンズとの
“アコースティック・トラッド” ユニット

エッチンガム・スティーム・バンド
(Etchingham Steam Band)

の活動に専念した為、
アイランド・レーベルからこの作品が発売されるのは、
７６年になるのを待つことになります。

シャーリー・コリンズは参加していない為、
男性各メンバーがボーカルを担当しています。

Ａ面の２曲目「Morris Medley」
Mouresque ～ London Pride ～
So Selfish Runs The Hare ～
Maid Of The Mill ～ Sheriff’s Ride

ジョン・カークパトリックの、アコーディオン、コンサーティナと、
その妻スー・ハリスの、オーボエ、タルシマーが活躍する、

イングランドの伝統の “モリス・ダンス” の為の

ダンス・ミュージック・メドレー

Ｂ面の３曲目「Hanged I Shall Be」

実際に有った殺人事件を唄った

“マ－ダー・バラッド”

シャーリー・コリンズ同様、
感情を抑えたマーティン・カーシーのクールなボーカルは、
特に、こういったダークなバラッドでは生きてきます。

The Albion Dance Band
『The Prospect Before Us』

ハッチングスは
エッチンガム・スティーム・バンド
(Etchingham Steam Band)解散後、

再び、シャーリー・コリンズを加えて
“エレクトリック・イングリッシュ・ダンス・バンド” として

“The Albion Dance Band” を結成。

サイモン・ニコル : ギター
デイヴ・マタックス : ドラムス
という、おなじみのフェアポート人脈に加え、

ボーカリストに、ジョン・タムス(John Tams)
ギターにグレアム・テイラー(Graeme Taylor)

様々な古楽器の奏者に
フィル・ピケット(Phil Pickett)
ジョン・ソスコット(John Sothcott)

等を加えた大所帯のバンドで、

７７年に『The Prospect Before Us』を発表。

イングランドの
“古典ダンス音楽のエレクトリック化”
というテーマは、
“モリス・ダンスのエレクトリック化”
を目指した７２年の、
『モリス・オン(Morris On)』
の延長線上にあるとも言えます。

ダンス音楽と言う事で、
半数以上の曲がインストルメンタルとなった事に加え、
新たに、ソングライターでもあった
ジョン・タムスをボーカルに迎えた為、
シャーリー・コリンズの出番が少なくなっています。

Ａ面の２曲目　
「The Hunt Is Up 」

シャーリー・コリンズとハッチングスがボーカル。
今作では、数少ないシャーリー・コリンズの出番です。
(スタジオバージョンが見つからないので、
同時期のライブ音源より・・・)

Ｂ面の２曲目
「La Sexte Estampie Real」

また今回は、マーティン・カーシーが参加しておらず、
彼のエレクトリック・ギターに代わるリード楽器として、
フィル・ピケットのリコーダーが大活躍しています。

正直なところ、当時は、
前作の『Battle Of The Field』
の内容と近い物を期待して聴いたため、
“ロック・バンド”としての魅力を
あまり感じませんでした…

１９７７年と言うと…
アンプリファイドされた音が当たり前の物となり、
“エレクトリック化” と “ロック化” が、
必ずしも同じ意味を持たなくなってきた時代
だったのかもしれません。

The Albion Band
『Rise Up Like The Sun』

“ジ・アルビオン・バンド(The Albion Band )”

と改名し、
ジョン・タムス主導で製作された
７８年の異色作。

前作からのメンバーに加え、

元ソフト・マシーン(Soft Machine)の
リック・サンダース(Ric Sanders)が、
エレクトリック・バイオリンで、

ピーター・ブロック(Pete Bullock)が、
シンセサイザーと、サックス等で、

それぞれ新しい要素を携えて参加。

ハッチングスが、たまたまアルバム製作時期に、
他の仕事で多忙だった事が影響し(幸いし??)、
今までにないミクスチャー感を持った作品となっています。

突然挿入される、ムーグ・シンセの “いかにも” なフレーズは、
今聴くと “なんだかなぁー” という部分もありますが…

“プログレとトラッドの
異種格闘技的な取り合わせ”
という…　この雑多な感じが、
バンドを再び “ロック寄りのフィールド”
に引き戻しています。

ゲストも多彩で、

リチャード・トンプソン
リンダ・トンプソン
マーティン・カーシー
おなじみの３人は、今回は楽器は演奏せず、
ボーカルと、バックコーラスで参加。

さらに、パブ・ロックのフィールドから、
アンディ・フェアウェザー・ロウ(Andy Fairweather-Low)

カナダの姉妹フォーク・デュオの
Kate & Anna McGarrigle　から、
ケイト・マクギャリグル(Kate McGarrigle)

この二人は、メインボーカルも担当しています。

Ａ面の１曲目　
いきなりトラッドではなくジョン・タムスの曲。
「Ragged Heroes」

ボーカルは、アンディ・フェアウェザー・ロウ。

Ｂ面の１曲目　リチャード・トンプソン作の
ロックナンバー
「Time To Ring Some Changes」

アンディ・フェアウェザー・ロウがメイン・ボーカル。
リチャード ＆ リンダも、コーラスで参加しています。

Ｂ面の４曲目 ラストを飾る大作!!
「Gresford Disaster」

1934年9月22日の
グレスフォード炭鉱事故を扱ったトラッド。

オープニングとエンディング部分は、
荘厳な古楽の様ですが、
中盤のインプロヴィゼーションは、
まさにプログレ！！

実は、発売当時、
私の周りの、アメリカ西海岸や東海岸のS.S.W.
ザ・バンド周辺、ブリティッシュ・トラッド…
といったあたりを好んで聞いていた友人や先輩には、

この作品は、あまり高く評価されていませんでした。

確かに、名盤と言われた『No Roses』『Battle Of The Field』
と比べると、まったく異質の作品になっており、
プログレっぽさと、特にシンセの導入が受け入れられなかったようです。

わたし自身も、今回の記事を書くにあたって、
この作品に触れるかどうか迷っていました…

しかし、改めて聴きなおしてみたところ…

「これが一番しっくりくるやん!!」

曲ごとに、普通にロックっぽかったり、
S.S.W.風だったり、プログレっぽかったり…と、
正直、アルバム単位で考えると、
作品としての統一感が無いのは事実ですが、

トラッドを素材として、
思い切り好き勝手に楽しんでしまった作品。

として、改めて愛聴盤になりました！！

この作品以降も、メンバーを入れ替えながら
“ジ・アルビオン・バンド(The Albion Band )”は、
２０００年代までコンスタントに活動を続けます。

Shirley Collins And The Albion Country Band
『No Roses』(1971)

A-1 Claudy Banks

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Simon Nicol : Electric Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Roger Powell : Drums
Lol Coxhill : Alto Saxophone
Ian Whiteman : Piano
Alan Cave : Bassoon
Dave Bland : Concertina

A-2 The Little Gypsy Girl

Shirley Collins : Vocals
Simon Nicol : Electric Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Roger Powell : Drums
Dave Mattacks : Percussion
Dave Bland : Dulcimer
Tony Hall : Melodeon

A-3 Banks Of The Bann

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : 12-String Acoustic Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Simon Nicol : Acoustic Bass
Dolly Collins : Piano
John Kirkpatrick : Accordion

A-4 Murder Of Maria Marten

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Simon Nicol : Electric Guitar
Tim Renwick : Electric Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Dave Mattacks : Drums
Nic Jones : Vocals. Fiddle
Barry Dransfield : Fiddle
Francis Baines : Hurdy Gurdy

B-1 Van Dieman’s Land

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Simon Nicol : Acoustic Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Roger Powell : Drums
Ian Whiteman : Piano
Colin Ross : Bagpipes
Alan Lumsden : Bugle
Dave Bland : Concertina

B-2 Just As The Tide Was A ‘Flowing

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Simon Nicol : Acoustic Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Roger Powell : Drums
Dave Bland : Concertina
Maddy Prior : Harmony Vocals

B-3 The White Hare

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Tim Renwick : 12-String Acoustic Guitar
Nic Jones : Fiddle
Ashley Hutchings : Electric Bass. Percussion
Roger Powell : Drums
Steve Migden : French Horn
Lal Waterson : Vocals
Mike Waterson : Vocals
Royston Wood : Vocals

B-4 Hal-An-Tow

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Roger Powell : Drums
Gregg Butler : Brass
Dave Bland : Dulcimer
Trevor Crozier : Jew’s Harp
Tony Hall : Melodeon
Simon Nicol : Chorus
Barry Dransfield : Chorus
Royston Wood : Chorus

B-5 Poor Murdered Woman

Shirley Collins : Vocals
Richard Thompson : Electric Guitar
Simon Nicol : Electric Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Dave Mattacks : Drums
Dolly Collins : Piano
Dave Bland : Concertina

Producer – Ashley Hutchings, Sandy Roberton

Albion Country Band 『Battle Of The Field』
(1976 Recorded in 1973)

A-1 Albion Sunrise
A-2 Morris Medley
(a) Mouresque
(b) London Pride
(c) So Selfish Runs The Hare
(d) Maid Of The Mill
(e) Sheriff’s Ride
A-3 I Was A Young Man
A-4 New St. George / La Rotta

B-1 Gallant Poacher
B-2 Cheshire Rounds / The Old Lancashire Hornpipe
B-3 Hanged I Shall Be
B-4 Reaphook And Sickle
B-5 Battle Of The Somme

Simon Nicol : Vocals. Electric Guitar. Acoustic Guitar. Electric Dulcimer. Synthesizer
Martin Carthy : Vocals. Acoustic Guitar
John Kirkpatrick : Vocals. Concertina. Accordion. Melodeon. Electric Piano
Ashley Hutchings : Vocals. Electric Bass
Sue Harris : Vocals. Oboe. Dulcimer
Roger Swallow : Drums. Percussion
Dave Mattacks : Percussion (tracks: B4)

Producer, Engineer – John Wood

The Albion Dance Band
『The Prospect Before Us』(1977)

A-1 Uncle Bernard’s / Jenny Lind
A-2 The Hunt Is Up
A-3 Varsovianna
A-4 Masque Tune
A-5 Huntsman’s Chorus
A-6 Minuet
A-7 Wassail Song
A-8 Picking Of Sticks / The Old Mole

B-1 Merry Sherwood Rangers
B-2 La Sexte Estampie Real
B-3 I Wish I Was Single Again
B-4 The Whim
B-5 Hopping Down In Kent
B-6 Horse’s Brawl

Shirley Collins : Vocals
John Tams : Vocals. Melodeon
Simon Nicol : Electric Guitar. Acoustic Guitar. Piano
Graeme Taylor : Electric Guitar. Piano
Ashley Hutchings : Vocals. Electric Bass
Dave Mattacks : Drums. Piano. Electric Piano
Michael Gregory : Drums. Percussion
Eddie Upton : Vocals. Caller
John Rodd : Vocals. Concertina. Tambourine
Phil Pickett : Crotales. Shawm. Recorder. Crumhorn. Bagpipes. Reeds. Chalumeau. Synthesizer
John Sothcott : Vielle. Lute. Crumhorn

Producer – Ashley Hutchings, Simon Nicol

The Albion Band
『Rise Up Like The Sun』(1978)

A-1 Ragged Heroes (by John Tams)

Andy Fairweather-Low : Vocals
Martin Carthy : Vocals

A-2 Poor Old Horse

Andy Fairweather-Low : Vocals
Julie Covington : Vocals
Kate McGarrigle : Vocals
Richard Thompson : Vocals
Linda Thompson : Vocals
Martin Carthy : Vocals
Pat Donaldson : Vocals

A-3 Afro Blue / Danse Royale

Synthesizer – Dave Bristow

A-4 Ampleforth / Lay Me Low

Kate McGarrigle : Vocals
Richard Thompson : Vocals
Linda Thompson : Vocals
Pat Donaldson : Vocals

B-1 Time To Ring Some Changes (by Richard Thompson)

Andy Fairweather-Low : Vocals
Martin Carthy : Vocals

B-2 House In The Country

Kate McGarrigle : Vocals
Martin Carthy : Vocals

B-3 The Primrose

B-4 Gresford Disaster

Martin Carthy : Vocals

Simon Nicol : Vocals. Electric Guitar. Acoustic Guitar
John Tams : Vocals. Melodeon
Graeme Taylor : Electric Guitar. Acoustic Guitar
Ashley Hutchings : Electric Bass
Dave Mattacks : Drums. Tambourine
Phil Pickett : Bagpipes. Trumpet. Shawm. Crotales
Michael Gregory : Drums. Percussion. Tambourine
Ric Sanders : Violin. Electric Violin
Pete Bullock : Synthesizer. Piano. Clarinet. Baritone Saxophone. Organ

Producer – Joe Boyd