ブリティッシュ・トラッド ② スティーライ・スパン(Steeleye Span)

フェアポート・コンベンション(Fairport Convention)に、
69年の『リージ・アンド・リーフ(Liege & Lief) 』まで、
ベーシストとして在籍していた、
アシュリー・ハッチングス (Ashley Hutchings)

いわゆる “ロックバンド” としてのフェアポートに飽き足らず
69年に脱退。

イングランド夫婦デュオ
マディ・プライア(Maddy Prior)
ティム・ハート(Tim Hart)

アイルランドトラッド風アシッド・フォークグループ
スゥイニーズ・メン(Sweeney’s Men)の元メンバー、
テリー・ウッズ(Terry Woods)と、
妻のゲイ・ウッズ(Gay Woods)

という、イングランド・アイルランド混成チームで、

スティーライ・スパン
(Steeleye Span)

を新たに結成。

『ハーク! ザ・ヴィレッジ・ウェイト
(Hark! The Village Wait)』

ドラムフェアポート
デイブ・マタックス(Dave Mattacks)と、
ジェリー・コンウェイ(Gerry Conway)
迎えて製作された1970年の第一作

ハッチングス作の、
オープニングの1曲を除いて
イングランドアイルランド
伝承曲だけで構成されています

一部のアカペラの曲以外では、
ゲストの2人によるドラムが入っており
ドラム・レス2作目3作目に比べると、
まだ、完全にロックから離れ切っていない様にも感じます。

例えば、

A面の2曲目。
イングランドのバラッド
「The Blacksmith(鍛冶屋)」


2作目でもドラム・レスで
再演される事になりますが、
この時点では、フェアポートの演奏と、
大きな差を感じないものになっています。

B面の3曲目
アイルランドのバラッド
「My Johnny Was A Shoemaker」


マディ・プライアと、ゲイ・ウッズの、
イングランド・アイルランドの混声アカペラです。

「イングランド」のトラッドに拘るハッチングスと、
「アイルランド」の素材も持ち込んだウッズ夫妻との間に
軋轢が有ったのかどうかは解りませんが、
テリー・ウッズゲイ・ウッズは、
この1作のみで脱退してしまいます。

Backwoods(1975)

その後、2人はウッズ・バンド(The Woods Band)や、
ゲイ&テリー・ウッズ(GAY & TERRY WOODS)という、
トラッドも一つの素材としたバンドとして活躍。

テリー・ウッズは後年、
あの “ポーグス(The Pogues)”
のメンバーとなります。

75年の1作目 Backwoods より「Side Tracked」

脱退した二人について、ハッチングスは、
「アイルランド」の素材と言う点だけでは無く、
トラッドに対しての「反純血」と言う部分も、
気に入らなかったのではないか?…
とも思われます。

しかし、皮肉なことに、
ハッチングス自身が脱退した4作目以降
トラッドの純血という呪縛
(ハッチングスの呪縛?) から解き放たれる事で、
“スティーライ・スパン”は、
ポップなロックバンドとして、
ブレイクしていく事になる訳ですが…

『プリーズ・トゥ・シー・ザ・キング
(Please to See the King)』

ウッズ夫妻の脱退後、新たに

ギターに、マーティン・カーシー(Martin Carthy)
フィドルに、ピーター・ナイト(Peter Knight)

の2人を迎えて、本格的に
ドラム・レス“エレクトリック・フォーク” を、
目指した71年の第2作

ドラム・レスという点については、
それほど拘りが有ったとは思えず、
スティーライ脱退後は、
必要に応じてドラムも加えた録音を行っています。

1965年のデビュー作

当時、マーティン・カーシーは、
英国の “フォーク・リヴァイヴァル”
と呼ばれた伝承曲の復興運動のフィールドでは、
すでに有名なトラディスト

Scarborough Fair」は、この人がオリジナル

その彼が、エレクトリック・ギターに持ち替えるというのは、
保守的なトラディスト達にとっては、
ディランのロックへの転向に匹敵する事件だったはずです。

A面1曲目
「The Blacksmith(鍛冶屋)」

新メンバーでの再演。

マーティン・カーシー硬質なギターに、
ハードロックのリフと言っても良い存在感が有り、
ドラム・レスになったこのテイクの方が、
逆にヘビーでロックっぽいのでは?…

当初「エレクトリックなバンドで演奏するには、
耳栓が必要だ。」

と、言っていた様ですが…
後のマディ・プライアの話によると、
いざスタジオに入ると
他の誰よりもラウドな音を出していたそうです。

生ギターを、テレキャスターに持ち替えた
三上寛を連想してしまうのは… わたしだけ?
(だいぶ違うか?… あの人もともと狂暴だし…)

A面5曲目
「Boys Of Bedlam
(ボーイズ・オブ・べドラム)」

「Bedlam Boys」
「Mad Maudlin’s Search」とも呼ばれる、
17世紀のイングランドのトラッド

ベドラム(Bedlam)は、
イングランドで最古の精神病院で、
残虐な治療で悪名高く
狂人達の動物園と言われた。

正式名称は王立ベスレム病院 (Bethlem Royal Hospital)

べドラムの狂ったトム
(Mad Tom of Bedlam)
を訪ねて旅をする、
やはり狂人のモードリン(Magdalene)
と言う、かなりダークな内容ですが、

この淡々とした演奏が、
この狂気に満ちた古典曲の内容を、
かえって際立出せている様にも感じます。

ちなみに、この曲のダークな世界を、
更に凶暴な音で表したのが
80年代“トランス・レコード” で一世を風靡し、
(トランス・ギャルなんていうオッカケもいた…)
ヴィジュアル系に乗っ取られる前の、
雑誌『FOOL’S MATE』の初代編集長でもあった
故、北村昌士が、ベースとボーカルを担当していた、

YBO2(ワイビーオーツー、イボイボ)

後期は、クリムゾン・タイプの整った音に変化して行きましたが、
初期の頃は、よりフリー・フォームでノイジーな音を出していました。

YBO2 – Boys of Bedlam (live 1986)

同じ “精神病院” 繋がりで、
夢野久作の猟奇小説(??)『ドグラ・マグラ』に登場する
狂人の歌詞を唄った曲も、同時期に発表していました。

ザ・バンドと比較されたフェアポートに対して、

ドラムレスになった事で、
かえって強調される事になった
ダークでヘビーな音は、
ツェッペリンとも通じる部分さえ感じさせます。

『テン・マン・モップ、あるいは
リザーヴァー・バトラー氏捲土重来
(Ten Man Mop, or

Mr. Reservoir Butler Rides Again)』

2作目の路線を踏襲した72年
3作目にして、最も評価の高い作品

モップ(Mop)と言うのは “モップ・フェア(Mop Fair)” と言われる、
労働者たちが仕事を求めて集まる、求人の為のイベントの事で、
テン・マン(Ten Man)10人しか集まらないモップ(Mop)
つまり、お粗末なイベントの意味だそうです。

リザーヴァー・バトラー(Reservoir Butler)は、
このアルバムに取り上げたトラッドの作者の一人だと言う事です。

マーティン・カーシーの、
エレクトリック・ギター路線も定着
正統派のトラディストを取り込む事で、
単なる “エレクトリック・フォーク” のバンドから、
“エレクトリック・トラッド” のバンドとして
保守派のトラディストからも認められる事になった作品です。

A面の1曲目
イングランドのクリスマス・ソング
「Gower Wassail(ガワーワサイル)」

Wassailing(ワイサリング)と言うのは、
古くからのイングランドで、
クリスマスに行われる飲酒のイベントの事だそうです。

この曲でも、いきなり
マーティン・カーシーの硬質なギターが炸裂しています。

B面の2曲目 
「Captain Coulston

(コールストン船長)」

アイルランドの移民を運ぶ船の事を唄った
19世紀の曲ですが、
この曲は、アイルランドのトラッドなのでは??

A面2曲目8分の6拍子のジグ(Jigs)
B面3曲目4分の4拍子のリール(Reels)
それぞれ、ダンス曲のメドレーですが、
これにもアイルランドの曲が含まれています

同時期に、ハッチングスは、
スティーライ・スパンと、並行して、
結婚相手シャーリー・コリンズ(Shirley Collins)を主役に、

シャーリー・コリンズ &
アルビオン ・カントリー・バンド
(Shirley Collins

And The Albion Country Band)

として、純粋にイングランドのトラッドだけを扱った

『ノー・ローゼズ(No Roses)』を制作。

このアルバムが高評価を得た事も有り、
さらに純粋にイングランドのトラッドに拘って
スティーライ・スパンを脱退…

アルビオン・バンド
(The Albion Band)

としての新たな活動を始めます。

『Hark! The Village Wait』(1970)

A-1 A Calling-On Song (by A.Huntchings)
A-2 The Blacksmith (Trad)
A-3 Fisherman’s Wife (by I MacColl)
A-4 Blackleg Miner (Trad)
A-5 Dark-Eyed Sailor (Trad)
A-6 Copshawholme Fair (Trad)
B-1 All Things Are Quite Silent (Transcription by Vaughan Williams)
B-2 The Hills Of Greenmore (Trad)
B-3 My Johnny Was A Shoemaker (Trad)
B-4 Lowlands Of Holland (Trad)
B-5 Twa Corbies (Trad)
B-6 One Night As I Lay On My Bed (Transcription by Hammond)

Maddy Prior : Vocals. Banjo
Tim Hart : Electric Guitar. Vocals. Dulcimer. Fiddle. Banjo. Harmonium
Terry Woods : Electric Guitar. Vocals. Concertina. Mandolin. Banjo
Gay Woods : Vocals. Concertina. Autoharp. Bodhran
Ashley Hutchings : Bass

Dave Mattacks : Drums
Gerry Conway : Drums

Producer : Sandy Roberton

『Please To See The King』(1971)

A-1 The Blacksmith
A-2 Cold, Haily, Windy Night
A-3 Jigs: Bryan O’Lynn / The Hag With The Money
A-4 Prince Charlie Stuart
A-5 Boys Of Bedlam
B-1 False Knight On The Road
B-2 The Lark In The Morning
B-3 Female Drummer
B-4 The King
B-5 Lovely On The Water

Maddy Prior : Vocals. Spoons. Snare. Tambourine. Bells
Tim Hart : Electric Guitar. Vocals. Dulcimer. Bells
Martin Carthy : Electric Guitar. Vocals. Banjo. Organ. Bells
Ashley Hutchings : Bass. Vocals. Bells
Peter Knight : Fiddle. Vocals. Mandolin. Organ. Bass. Bells

Producer : Sandy Roberton

『Ten Man Mop Or Mr. Reservoir Butler Rides Again』(1971)

A-1 Gower Wassail
A-2 Jigs: Paddy Clancey’s Jig / Willie Clancy’s Fancy
A-3 Four Nights Drunk
A-4 When I Was On Horseback
B-1 Marrowbones
B-2 Captain Coulston
B-3 Reels: Dowd’s Favourite / £ 10 Float / The Morning Dew
B-4 Wee Weaver
B-5 Skewball

Maddy Prior : Vocals. Spoons. Snare
Tim Hart : Electric Guitar. Vocals. Dulcimer. Organ. Banjo. Mandolin
Martin Carthy : Electric Guitar. Vocals. Organ
Ashley Hutchings : Bass. Vocals. Bells
Peter Knight : Fiddle. Vocals. Mandolin. Organ. Timpani. Tenor Banjo

Producer : Sandy Roberton

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