関西ノー・ウェイヴ 雑記 ②INU

1978年
わたしが大学で所属していたサークルに、
二つ下の学年で、
当時 “変身キリン” でピアノを弾いていた
須山公美子が入部してきた。

そして、彼女の影響で、
新世代のアンファン・テリブル
(enfant terrible)達と出会う事になり、
わたし自身が、それまで聞いてきた音楽とは、
全く別の音楽表現に出会うことになる訳だが…

前項
『関西ノー・ウェイヴ 雑記 ①アーント・サリー』で触れた
“Aunt Sally(アーント・サリー)”
衝撃も醒めないうちに、

須山がキーボードを担当していた、
本田久作君のバンド “変身キリン” が参加した
オムニバス・アルバム『ドッキリ・レコード』が、
80年にリリースされた。

既に、DADAアント・サリー 
等をリリースしていた
ヴァニティ・レコードを除けば、
この時期の関西では、
最初の、PUNK系の自主製作盤LPだった。
(インディーズ等と言う言葉は、
まだ一般的では無かった)

(自主製作盤と言う事でいえば、
関西でもそれまでに、
ブルースフォーク系の作品が
何点かリリースされていたが…)

無地のスリーブに、
タイトルと、参加バンド名が記された
三角形の色画用紙(色は何色かあったはず)が、
張り付けられた、
往年のブートレッグの様なジャケット

ジャケットより一回り大きな
B4サイズの色画用紙
に、
各バンドのインフォを印刷したものが、
ホチキス止めのブックレットとして付けられていた。

B4サイズ、ブックレット
(古い物なので、色画用紙が変色してしまっている…
)

その中で、
群を抜いた演奏と、存在感を示していたのが、
町田康(やすし)改め、町田町蔵君の
“INU”

レコードのB面1曲目。
「メシ クウナ」

西川成子さんの、
単調だがヘビーなベース・リフに、
北田昌宏君の、
テクニカルでありながら、捻じれたギターが絡みつき、
その中を、
CANダモ鈴木や、三上寛の様な
町田君のボーカルがのたうちまわる!!

前項のアーント・サリーが、
女性特有のエキセントリックな部分と、
どこか醒めた内向性や、
クールさを併せ持っていたのと同様に、

INUの場合にも、
外に向けて感情をむき出しにしている様で
やはりどこか醒めた部分を感じさせる

それは、妙に文学的な部分と、
関西人ならではの緩いボケが同居した様な、
町田君の書く歌詞による部分が大きい。

町田君は、この時点で
まだ二十歳になるかならないかの歳

しかし、彼の言葉の選び方のセンスと、
独特のテンポのおかげで、
その歌詞に、あまり青臭さを感じさせない

後の作家・町田康の片鱗が、
この頃から既にうかがえる。

翌81年徳間ジャパンからの、
メジャー・デビュー盤
『メシ喰うな!』での再録は、
オリジナルのドロドロした衝撃を残しながら、
ダブっぽいアレンジになっているが、

『ドッキリ・レコード』での、
オリジナル・ヴァージョンの方が、
ライブでの演奏に近く、
個人的には、シックリくる。

初めてライブを見た
79年の秋頃には、

ギターは、北田昌宏君
ベースは、西川成子さん
ドラムは、東浦真一君

という、『ドッキリ・レコード』
製作時のメンバーにおさまっていた。

前項の『アングラ・テント芝居 補足』でふれた
小間慶大君は、“INU” の2代目のギタリスト
(初代のギタリストは林直人君)
当時は、やはり “INU” の初代ドラマーで、
若くして亡くなられた、西森タケル君と、
“UP-Maker(ユーピーメーカー)”
として活動していた。

81年にアンバランス・レコードからリリースされたEP

この時期の自主盤としては珍しく
レゲエ・ダブを取り込んだ独自の音を出していた。

K・I・K・I – Last Chance

西森君が参加していた、
第1期INU屋根裏での、
79年3月25日のライブ音源は、
INU解散後74年になって、
アルケミー・レコードからリリースされている。

第1期INUのメンバーは、
ギター – 林直人
ベース – 田中 “オショウ” 敬介
ドラム – 西森タケル

この東京でのライブの後、
小間慶大君が、林直人君に替わって
ギターで加入する。

小間君に関しては、79年の8月のギグで、
たまたま演奏中にギターの弦を切ってしまい、
町田君から、
「学園祭バンドと違うんじゃ!」
「やめてまえ!」

等と、かなりひどい罵声を浴びて
辞めさせられていた様だ…

小間君に替わって、
変身キリンから転入した、
北田君の完成されたギターが、
バンドを引っ張っていた様に感じる。
(当時は、レッドノイズの
ビル・ネルソン・タイプとも言われていた。)

成子さんのベースは、
当初は若干素人っぽいプレイだったが、
とにかくステージでは、
クールで貫禄さえ感じさせる存在感が有った

北田君のお父様の所有物件だったと思われる、
阪急・蛍ヶ池の “クルセイド” 等、
比較的小規模なライブハウスやイベントで、
ライブを見る機会が多かったが、

鳥井ガク氏のプロデュースで、
メジャー・デビュー・アルバム
『メシ喰うな』を、
出す頃には、

大阪の、当時としては大型のライブハウス
“バーボン・ハウス” を満員にするくらいまで
知名度が上がっていた。

しかし、バンドとしては短命に終わり、
82年には、メンバーを入れ替えて、
(アント・サリービッケギターで参加)
大阪、寺田町の「スタジオ・アヒル」での
新生 “INU” としてのギグの当日に、
バンド名を突然、
“FUNA(フナ)” に改名した。

当日は、“INU” の名前で、
事前に告知されており

わたし達も、そのつもりでギグに行った訳だが、
実際の演奏は、それまでの “INU” とは
全く違う物になっていた(はず…)。

正直、ほとんど憶えていない…

と言うのも、
当日のギグが始まってすぐに、
一緒に行った須山公美子の、
メンヘラ度が全開になり、
アルコールの勢いも有り、
手のつけられない状態に…

当時、
(何故か?)INUのマネジャーを務めていた、
ダスター池沢氏も、
「(はた迷惑やし)何とかしたれよ…」

とにかく、アヒルを出て、
寺田町駅前の公園で、
酔いを醒まさせたり、なんだかんだ…

ようやく、なんとか落ち着いて
アヒルへと戻った時には

ギグ終わってるやん!!

FUNA(フナ) Live 82年3月29日 京都磔磔
レタスと仏像~竹やぶさんのロックンロール~クールクールハンズ
~ブーツと牛肉~憎しみのダイハツミゼット~サンキュー
~鬼畜KCIA~ごはん貧乏~清い川~(Unknown)

別項の『70年代後半の関西ライブスポット』でも書いたが、
1曲だけで終わった
人民オリンピックショーのギグも、
このスタジオ・アヒルでのものだった。

町田君アヒルが絡むと、
ロクな事が無かった様な記憶が…

“FUNA” も、それほど長くは続かず、
その後、町田君は、
人民オリンピックショー、
絶望一直線(あほの魂)、
愛慾バンド、天井天国、
淫如上人&ミラクルヤング、北澤組、
ミラクルヤング…

等々、短期間でバンドを
作っては壊しを繰り返し、

現在は、作家、町田康として、
名を成されている


V.A.『ドッキリ・レコード』
(1980 必要レコード)

A-1 1979! – ウルトラ・ビデ
A-2 Peace Forever – アルコール42%
A-3 Space Invader – アルコール42%
A-4 チュウネンヲ アワレムウタ – アルコール42%
A-5 ウエディングムーン – 変身キリン
A-6 熱血サーカス少年 – 変身キリン
A-7 砂漠の砂売り – 変身キリン

B-1 メシ クウナ – INU
B-2 Fade Out – INU
B-3 インロウタキン – INU
B-4 All The Old Punks – INU
B-5 Summer Night Memories – チャイニーズ・クラブ
B-6 C’ Side Bang! – チャイニーズ・クラブ
B-7 クルマヲ トバシテ – チャイニーズ・クラブ

ウルトラ・ビデ
BIDE : Voice. Guitar. Organ. Tape
JOJO広重 : Bass
渡邉浩一郎 : Violin. Electronics. Marcorinet. Strings. Tape
Taiqui : Percussion. Tape

アルコール42%
Gyaos : Vocals. Guitar. Synthesuzer
Yamada : Guitar
Nagai Yasuyuki : Bass
Makino Mitsugi : Drums

変身キリン
本田久作 : Vocals. Guitar
須山公美子 : Keyboard
高畑千穂 : Vocals
田中栄次 : Bass
和田しのぶ : Drums

INU
町田町蔵 : Vocals
北田昌宏 : Guitar
西川成子 : Bass
東浦真一 : Drums

チャイニーズ・クラブ
シノヤン(篠田純) : Guitar. Vocals. Chorus
ツヨシ(竹埜剛) : Bass
タカミ(磯野隆臣) : Drums. Chorus
勝賀瀬惠子 : Guitar. Vocals. Chorus
手塚恵子 : Organ. Piano. Chorus

INU『メシ喰うな!』
(1981)

A-1 フェイド・アウト
A-2 つるつるの壺
A-3 おっさんとおばはん
A-4 ダムダム弾
A-5 夢の中へ
A-6 メシ喰うな!

B-1 ライト・サイダーB (スカッと地獄)
B-2 インロウタキン
B-3 305
B-4 メリーゴーラウンド
B-5 気い狂て

町田町蔵 : Vocals. Lyrics
北田昌宏 : Guitar. Percussion
西川成子 : Bass
東浦真一 : Drums. Percussion

Producer : 鳥井ガク

INU
『牛若丸なめとったらどついたるぞ!』
(1984)

A-1 イヌ
A-2 ラヴ・オーヴァー・ヴォルテージ
A-3 ガンペキ
A-4 メシ喰うな!
A-5 フクスケニンギョウ

B-1 ガセネタ
B-2 西森とオショウ
B-3 あほのケンカ (Ultra Bide)
B-4 マリィ
B-5 カンボジア
B-6 オール・ザ・オールド・パンクス

町田町蔵 : Vocals
林直人 : Guitar
田中 “オショウ” 敬介 : Bass
西森タケル : Drums

1979.03.25 Live at 屋根裏

Up-Maker『み・ん・な』
(1981)

A-1 K・I・K・I
A-2 Last Chance

B-1 In・The・Big・City
B-2 だかラ, ラ・ラ・ラ

西森タケル : Drums. Vocals
カトマリ : Vocals. Keyboards
小間慶大 : Guitar
ネギ : Guitar
K. K. 田上 : Bass. Synthesizer
香織 : Alto Sax

1981.07.12 Live at 天王寺 マントヒヒ(A-1. A-2. B-2)

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