つげ忠男 作品一覧 ② 1979年 ~(Part.1)
1968年から1978年までの作品に関しては
『つげ忠男 作品一覧 ① 1968年 ~ 1978年』参照
1978年の 「与太郎犬」以降、1984年6月に日本文芸社から兄・つげ義春を看板作家に据えて創刊された季刊誌『COMICばく』誌上への、継続した作品発表に至るまでの約6年の間に、発表されたのは僅か4作品……
1979年作品
1979-① 「カラスかんざぶろう」
夜行8 1979年5月 【再録単行本】F. Y. K9.
1979-② 「スランプのころ」
カスタムコミック 1979年7月号 【再録単行本】I. K9.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
1978年の「与太郎犬」から約1年後、『夜行8』に発表された1979-① 「カラスかんざぶろう」と、続く『カスタムコミック』掲載の1979-② 「スランプのころ」の2作品には、妻に養われながら作品の制作に苦悩し、釣りに明け暮れる漫画家が描かれている。
奥様の尽力によって軌道に乗りつつあったジーンスショップの経営と、制作が途切れがちな漫画家としての仕事、その狭間での当時の忠男氏の葛藤が、これらの作品にも滲み出ている……
1980年作品
1980-① 「釣り師熱唱」
カスタムコミック 1980年1月号 【再録単行本】R. g. K10.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
半年のブランクの後、『カスタムコミック』に掲載された “釣り物” 作品。 サブ、リュウ、ブンが、初めて無頼物のフィールドを抜け出して登場する “スピンオフ作品” とも言える一編。
1983年作品
1983-① 「再会」
近代麻雀オリジナル 1983年8月号 【再録単行本】I. O. K4.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
84年までの長いブランクの期間中、唐突に麻雀専門誌に発表された唯一の作品。 “麻雀” をネタとしているが、ここでもサブ、リュウ、ブンが昔の仲間として登場している。 ちなみに、ブンは頭髪が薄くなったという設定でスキンヘッドで登場……
1984年作品
1984-① 「ささくれた風景」
COMICばく No.1 1984年6月 【再録単行本】I. K4.
1984-② 「近頃のこと…」
ガロ 1984年9月号 《単行本未収録》
1984-③ 「ラストワン」
COMICばく No.2 1984年9月 【再録単行本】I. K10.
1984-④ 「シンプルライフ」
COMICばく No.3 1984年12月 【再録単行本】R. K10.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
1984年6月、日本文芸社から創刊された季刊誌『COMICばく』には兄・つげ義春と共に、1987年に同誌が廃刊となるまでコンスタントに作品を発表し続ける。
長いブランクの後に発表されたこの作品。 淡々と罪の意識も希薄なまま犯罪を繰り返す主人公の男… 忠男氏にとって犯罪者という存在は、当時の享楽的な世相に対するアンチテーゼであったのかもしれないが… あまりにも俯瞰的に描かれたストーリーには、70年代の諸作品の様な心中にトラウマを残すほどの衝撃を感じ取ることができないのが残念に思えてしまう。 しかし… 半面、それは実生活者としての作者の立ち位置を反映したものでもあり、純粋に表現者としての作者と、職業作家としての作者… という相反する立場の間での葛藤が正直に反映された作品として受け止めたい佳作でもある。
このプロットは、1987年の「けもの記」で再度展開されることになるが、それに至るまでの『COMICばく』掲載の諸作は、忠男氏自身も「毎回違う傾向の作品を発表しようとした」と述べられている通り、作者自身の “迷い” が反映された物と成って行く……
久しぶりに『ガロ』に掲載されたイラストとエッセイ。
ウインドサーフィン、柳ジョージ、マイケル・ジャクソン、カルチャークラブ、ユーリズミックス… ジーンズショップのマスターというご自身の環境と、若いスタッフや子供達の影響からか、とても70年代の諸作品を産み落とした忠男氏とは思えない内容のエッセイと成っている……
バブル時代のトレンディーな風潮(?!)に、あの忠男氏ですら流されてしまうとは… 結果…この後の4作品は、時代に迎合しようとしながら実際は微妙に外れてしまっている… という迷走する問題作と成ってしまう…
『COMICばく』での2作目。 唐突に展開されるトレンディーな設定(??)… オシャレなジーンズショップの “マスター” と、レーサー志願の女性。 父と娘ほどの隔たりのある世代間の共感が描かれるが、昭和の時代背景を共有するには少々無理のある設定… 作者自身をモデルとしたと思われる主人公自ら、作中で「カッコイイ物を書きたい」と編集担当者に語っている…
続く『COMICばく』掲載3作目。 かつてレーサーを目指した男と、現在も「ただ格闘していたいだけ…」と、前座に甘んじるレスラー。 前作同様、いかにも80年代的な設定と成っている… レスラー役としてリュウのキャラクターが登場している。
後に1994年7月号から月刊誌「花も嵐も」に掲載される「つげ忠男劇場 私景」・1995年5月号・私景⑩(単行本サブ・タイトル “背が寂し世界の巨人」”)によると、リュウのモデルとなったのは、レスラーのジャイアント・馬場だったのではないかとも思われる…
1985年作品
1985-① 「真夜中の遊戯」
COMICばく No.4 1985年3月 【再録単行本】I. a. K10.
1985-② 「失敗作 (原題・風のように)」
COMICばく No.5 1985年6月 【再録単行本】R. K4.
1985-③ 「粗悪な夫婦」
夜行14 1985年7月 【再録単行本】J. Q.
1985-④ 「苦戦の人」
COMICばく No.6 1985年9月 【再録単行本】I. a. K4.
1985-⑤ 「夜の蝉」
COMICばく No.7 1985年12月 【再録単行本】J. g.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
年を跨いだ『COMICばく』掲載4作目も、やはり前2作と同様に70年代の忠男氏の作風とは異質な作品となっている。
社員旅行の宴会での仮装体験から化粧にハマり、非日常の “裏側” の自分に逃避する男が描かれる。 主人公の務める丸の内あたりを匂わせる “会社” には、70年代に描かれていた様な “戦中派” や “戦争の影” はみじんも見受けられない。 さすがに80年代と言う時代のせいか… 70年代に忠男氏が描いてきた世界とは異質な設定と成っている。 主人公が予感する “転落の人生” にも、無頼の街の住人たちの様な切迫感は感じ取れない……
そして迷走作品の極めつけは、作者自らが「失敗作」と開き直る『COMICばく』掲載5作目のこの作品… 舞台となるのは、風が吹きぬける国境に近い架空(?)の街。 髭をたくわえたサブと思しきキャラは “シカゴ” 、リュウは “ホットショット” として登場する。 忠男氏自ら、貸本時代に描いていた様な “ガラでもない作品” と語っている様に、70年代のつげ忠男のパブリック・イメージから解き放たれた新境地とも言えるが……
1930年代のアメリカ映画へのオマージュとも受け取れるこの作品。 忠男氏によると、 “シカゴ” のキャラクターは、ハンフリー・ボガートをイメージしたものとのこと…
6年ぶりに『夜行14』に掲載された今作と、続く『COMICばく』での2作は、写真家・大石裕之氏の写真が扉絵に使用されている。 『COMICばく』でのこれまでの4作に対する反動なのか、兄・つげ義春の作風にも似た作品となっている。 (作品中には、つげ義春作品のキャラクター達も登場) 1995年の 石井輝男監督による映像作品『無頼平野』では、この作品がストーリーに組み込まれている。
大石裕之氏の廃屋の写真が扉絵に使用されており、作中では挫折した小説家志願の男・花本とその妻・民子が住むあばら家として描かれている。 時代設定は70年代の諸作の様に昭和30年代となっており、忠男氏自身を投影したと思われる主人公 “戸部” と花本が務める血液銀行が久々に登場する。 自堕落に堕ちていく男と、自らの過去の作品への誇りだけにすがる自意識過剰なその妻。 それを淡々と見守る “戸部”。 忠男氏自らの過去(70年代)へのレクイエムとも受け止められる作品。
流れ者で無頼漢の父親 (サブのキャラが使用されている)。 戦中派の彼は人を殺したことが有ると言う… 息子である主人公との僅かな触れ合いと、死別が描かれた名作! 安部慎一の71年の作品「軍刀」へのオマージュの様にも感じられる…
父の死を知り帰省する主人公を描いたこの一コマも、気になってしまうのだが…
1986年作品
1986-① 「懺悔の宿」
COMICばく No.8 1986年3月 【再録単行本】R. g. K10.
1986-② 「ある予感」
COMICばく No.9 1986年6月 【再録単行本】R.
1986-③ 「さらば愛しき人」
まんが笑アップ増刊 バイオレンス10 1986年8月 《単行本未収録》
1986-④ 「流れ者たち ①」
COMICばく No.10 1986年9月 【再録単行本】R. K5.
1986-⑤ 「流れ者たち ②」
COMICばく No.11 1986年12月 【再録単行本】R. K5.
1986-⑥ 「闇の中」
麻雀王 1986年12月号増刊「ブギーマン2」 【再録単行本】J. g.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
唐突に発表された兄・つげ義春の “旅物” 風の作品。 山間の宿・虚空荘にたむろし、石仏を彫り続ける訳ありのはみ出し者達。 その中には、1985-④ 「苦戦の人」に登場した花本やリュウも描かれているが、1996年から連載を開始する長編 「舟に棲む」の主要キャラ “和尚” が、既にここで登場している!
80年代バブル期の享楽的な世相に抗う中年サラリーマン。 大地震を予感するが、どこかすべてをリセットする事を期待している様にさえ見受けられる。 男の夢にに現れるゴッホの糸杉や南フランスの様な風景の中に佇むロバと農夫… という光景は、かつての荒涼とした戦中派の原風景とは全く異質な、1972-⑨ 「遠い夏の風景」に描かれた夏の風景と同質の乾いた開放感に包まれている。
1985-② 「失敗作 (原題・風のように)」と同様に、サブは “シカゴ” 、リュウは “ホットショット” として登場する。 掲載誌の方針に合わせた(?)ハードボイルド風の異色作。
初出誌であるまんが笑アップ増刊 バイオレンス10 (壱番館書房)が入手困難な為、後に『アックス vol.62』(2008年4月)に再録される。
『COMICばく』に2か月連続で掲載された1986-④ 「流れ者たち ①」1986-⑤ 「流れ者たち ②」と、翌年の1987-①「けもの記 ①」~1987-⑤ 「けもの記 ④」は、それぞれ過去に発表した作品のリメイクともとれる作品。
1984-④ 「シンプルライフ」では、ただ格闘していたいだけの前座レスラー “ヤス” として描かれていたリュウのキャラクターは、今作では “岸本龍二” として登場。 プロレスに戦後のべニア張りマーケットと同質の空気を感じる主人公。 プロレス雑誌の編集者としての彼は、龍二の秘めた実力と投げやりさに魅力と同時に苛立ちを覚える。 “負の系統” の二人の “二流のニヒリズム” が描かれた、忠男氏の商業作家としての側面を感じさせる作品。
ホラーとファンタジー専門誌への掲載作。 地方の港町の奇習 “首燈籠” が描かれた短編。 兄・つげ義春の “旅物” の範疇にも入るかと思われるが、戦時下での軍人たちによる虐殺事件や、それに由来する “首燈籠” そのものよりも、今も何事もなかったかのように生きのびている元・軍人達に薄気味悪さを感じるという地元の老人の言葉に、70年代初頭の忠男氏の戦争と戦後へのこだわりが再燃している様にも感じられる……
1987年作品
1987-① 「けもの記 ①」
COMICばく No.12 1987年3月 【再録単行本】R.K5.
1987-② 「けもの記 ②」
COMICばく No.13 1987年6月 【再録単行本】R.K5.
1987-③ 「骨片」
夜行15 1987年7月 【再録単行本】e.
1987-④ 「けもの記 ③」
COMICばく No.14 1987年9月 【再録単行本】R.K5.
1987-⑤ 「けもの記 ④」
COMICばく No.15 1987年12月 【再録単行本】R. K5.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
この年、いよいよ『COMICばく』誌上で未完の長編作品「けもの記」の連載が始まる。
1984-① 「ささくれた風景」のリメイクとも受け取れる長編作の第一作の扉絵には、「ささくれた風景」に描かれていた風景(嵐の海にそそり立つ岩)が再登場している。 わずかな金を得るために淡々と殺人を犯す主人公・小倉清彦。 たまたま立ち寄ったスナックのママと良い仲になり、その情夫をも殺害。 そして…自暴自棄な二人の逃避行が始まる……
『COMICばく』への連載の合間に、『夜行15』に発表された作品。 釣り仲間の佐古田老人の吹く鳥寄せの笛は、戦時下で亡くなった妻の骨で作った物だという… 忠男氏本人と思われる主人公の漫画家は、老人と亡き妻との想い繋ぐ唯一の品 “骨笛” に、実に世俗的な解釈を織り込んだ作品を仕上げてしまう…
すてばちな逃避行を続けながら短絡的な殺人を繰り返す二人。 一方、所轄の刑事・不動は、最初の殺人現場に残されたわずかな手掛りから、犯人・小倉清彦にたどり着く。
忠男氏の久しぶりの商業作家としての長編作品である今作だが… ストーリーがいよいよ佳境に差し掛かったこのタイミングで、なんと… 掲載誌である『COMICばく』の突然の廃刊という憂き目に遭ってしまう! 最終ページには『けもの記・第一部 / 完』と記されていることから、忠男氏としては続編としての第二部を掲載誌を変えて発表するつもりでいた事が伺われるが……
結果的には、1996年の長編作品「舟に棲む」連載開始までの9年以上の期間、2誌への連載を含むエッセイの発表は有ったものの、漫画家・つげ忠男としての漫画作品の発表は途絶えてしまう……
1988-連載開始作品
1988-連載開始作品 「風来坊のひとり言」
月間へら 1988年1月号~1991年12月号 【再録単行本】K. Z.
(【再録単行本】の詳細は、別項『つげ忠男 単行本一覧』を参照)
釣り雑誌・月間へらに、1972年5月号から1974年12月号まで掲載された「スケッチ(釣行記)」は、同誌上で1988年から「風来坊のひとり言」として再スタートする。 今回はエッセイがメインとなり、3段組の文章にイラストが添えられた形になっている。 ある程度安定した実生活に根ざした “釣り” という趣味のフィールド上で語られるエッセイは、70年代の「スケッチ(釣行記)」に比べ、生き生きと軽やかなものとなっている。 1996年から連載が始まるの長編作品「舟に棲む」の主要登場人物、長久寺住職やフーテンのトメさんのモデルとなる釣り仲間たちが登場している。
1990年代以降の作品については、
『つげ忠男 作品一覧 ② 1979年 ~(Part.2)』にて……