未完の表現者・安部慎一 ① (作品一覧)
漫画家 “安部慎一”
この名を知る者が令和のこの時代に、
どれ程居るのだろうか…
1970年代初頭、病的なまでに細密で有りながら、錆びたカミソリの様に鈍く危うい描線で描かれた、“私小説” ならぬ “私漫画” とも言える彼の諸作品。
それは、当時 “カウンターカルチャー” としての “マンガ” を体験した世代の心中に鈍い痛みを伴う古傷を残していった…
福岡県、筑豊炭田の炭鉱町田川市で比較的裕福な家庭に育った彼は、高校時代には新聞部に所属し、小説家を目指したことも有ったという。
永島慎二の「青春裁判」に出会ったことから、“マンガ” という表現手段を選択した。
高校在学中の1968年には家出を決行。阿佐ヶ谷の永島慎二を訪ねるが、追い返されている。
(福岡から飛行機で家出(?)して来たという若造を、60年代前半の “フーテン” を体現してきた永島が受け入れなかったのは、当然と言えば当然…)
高校卒業後、地元福岡県田川市の実家で執筆を続け、当時「ガロ」に対抗して手塚治虫が虫プロ商事から発行していた月刊誌「COM」と、小学館の青年誌「ビッグコミック」に、5作を投稿している。
1969-① 「土曜日」「剣」「家出」
COM 1969-1970 ぐら・こん 佳作入選
1969-② 「春の休暇」「星のない夜」
ビッグコミック 1969-1970 投稿作品
「COM」「ビッグコミック」への投稿作は、永島慎二やつげ義春の模倣の域を出ていなかったと言う。(当時の原稿は、本人の手元にも残っていないらしい)
その後、つげ義春の「海辺の叙景」に影響を受け、
淡々と事象を描いた “私漫画” 「やさしい人」を「ガロ」に投稿、入選・掲載された。
1970年作品
1970-① 「やさしい人」
ガロ 1970年5月 入選作【再録単行本】A. L. N. Q.
1970-② 「籠の鳥」
未発表作 1970年3月 【単行本未収録】
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
「ガロ」 1970年5月号に入選作として掲載された「やさしい人」
同時期の漫画家、宮谷一彦とも重なる細密でリアルに描き込まれた背景と、デフォルメを極力避けた人物の描写により、静かに冷たく張り詰めた “叙景” を見事に切り取る事に成功し、デビュー作の時点で、ただならぬ存在感を示している。
(2024.09.26 追記)
「アックス」 Vol.160 2024年9月号 に突然発表された、1970年3月執筆の未発表作品 「籠の鳥」!!
楡山書房(発売元:北冬書房)から『安部慎一短編集1 孤独未満』(1979)『安部慎一短編集2 まり子の憧れ』(1981)を出版された、やなせしらふ氏。(『しらふ倶楽部』というブログを立ち上げておられます。おそらく…わたしと同世代?)
やなせ氏が1977年12月から1984年6月まで発行されていた個人誌『望遠鏡』の第15号(1981年)に掲載された過去の未発表作を、今回『アックス』誌上で再録したもの。(同第15号に安部氏自らが寄せられた原稿 “「やさしい人」の頃” “「美代子阿佐ヶ谷気分」の頃” という記事も併せて再録)
この作品の制作時期については、外川凌氏が同号に掲載された記事の中で詳細に分析(?)されている!
扉絵の下部に小さく記入された 70 3.19 (19) 7 と言う数字。
「やさしい人」の最後のページの下部には 1970.2.6 -19- <6>
「美代子阿佐ヶ谷気分」最後のコマにも 70.11.17 という数字が確認できる。
外川氏が指摘されるように、この作品「籠の鳥」は、1970年2月6日に描き上げた(COM、ビッグコミックへの投稿5作の後の)第6作目の「やさしい人」と、1970年11月17日の(第8作目?)「美代子阿佐ヶ谷気分」との間の時期、1970年3月19日に描き上げた第7作目という事になる。
(19と言う数字は?? 作品制作時の安部氏の年齢か??)
これも外川氏の記事に詳しいが、この未発表作品は後に「冬」(ヤングコミック 1971年11月24日号掲載)と、「悪い夜」(ヤングコミック 1972年4月26日号掲載)という二作品にリメイクされることになる。
外川凌氏は、現役の精神科医というお立場から、安部慎一のノンフィクション小説とドキュメンタリー映画を制作中。
既に安部慎一氏の故郷であり、現在も奥様・美代子さんと暮らされている福岡県田川市へも何度か足を運ばれておられるとのこと… 色々な方々への取材の中で、今回の作品を発掘されたようですね。
(わたしのこの稚拙なブログも、ご参照頂いております様で… 光栄です)
外川凌さんのXはこちら https://x.com/camellemac1913
その後、高校時代の新聞部の後輩として出遭い、付き合い始めていた畠中美代子(現在の奥様)の卒業を待ち、上京。杉並区阿佐ヶ谷、富士荘二階で同棲しながら執筆活動を始める。
1971年作品
1971-① 「美代子阿佐ヶ谷気分」
ガロ 1971年3月号 【再録単行本】A. F. N.
1971-② 「孤独未満」
ヤングコミック 1971年4月14日号 【再録単行本】B. E. M. N. Q
1971-③ 「髪」
ヤングコミック 1971年6月9日号 【再録単行本】B. E. M. N.
1971-④ 「雨の少年」
ヤングコミック 1971年6月9日号 【再録単行本】B. E. M. Q.
1971-⑤ 「獅子」
ヤングコミック 1971年6月9日号 【再録単行本】B. E. M.
1971-⑥ 「沈める雪」
ヤングコミック 1971年9月22日号 【再録単行本】B. E. M.
1971-⑦ 「猫」
ヤングコミック 1971年9月22日号 【再録単行本】B. E. M. N. Q.
1971-⑧ 「浮気女」
月刊タッチ 1971年9月号 【再録単行本】B. H.
1971-⑨ 「富士荘二階」
ヤングギター増刊 OUR SONG NIPPON 1971年10月 【再録単行本】H.
1971-⑩ 「軽い肩」
ヤングコミック 1971年10月13日号 【再録単行本】B. E. M. N. Q.
1971-⑪ 「軍刀」
ガロ 1971年11月号 【再録単行本】A. F.
1971-⑫ 「背中」
ヤングコミック 1971年11月10日号 【再録単行本】B. E. M.
1971-⑬ 「冬」
ヤングコミック 1971年11月24日号 【再録単行本】B. H.
1971-⑭ 「まり子の憧れ」
月刊タッチ 1971年11月号 【再録単行本】C.
1971-⑮ 「屋根」
ヤングコミック 1971年12月22日号 【再録単行本】B. K. Q.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
上京後は、当時の「ガロ」誌上で “一二三トリオ” と呼ばれた鈴木翁二、古川益三らと、阿佐ヶ谷近辺での親交を深める。
安部は当時の金額で7~8万円(現在の40万円相当)の仕送りを、福岡の実家から受け取っていたというが、そのほとんどを費やして、夜な夜な飲み明かしていたとも言われる。
そんな中で、美代子をはじめ、若き表現者達との交友の中で生まれた先の見えない悩みや軋轢、愛情と憎悪、自己肯定と自己嫌悪…
それらの事象を断片的に描いた “私漫画” を精力的に発表し続ける。
「ガロ」3月号にデビュー2作目として掲載された「美代子阿佐ヶ谷気分」は、安部の代表作となった作品。
“彼”(安部)が不在の阿佐ヶ谷のアパートの一室。美代子のモノローグが、写真を基にしたシュールな描線で描かれていく。
最後のページに描かれた、床に無造作に転がった男性化粧品(MG5)の瓶と、夕闇の中に浮かぶ幻想的な唇は、当時の二人を暗喩するかの様な余韻を残している。
(この作品の絵柄に限っては、当時の林静一にも通じるポップアート的な要素も感じられる。)
71年から72年の2年間は、「ガロ」以上に、当時 “青年漫画” と言うジャンルを確立していた “青年誌”「ヤングコミック」(少年画報社)への作品の発表が中心になっている。
孤独な日常の中での思い付きの様な自殺願望と、無様で屈辱的なその挫折…
孤独さえも、俯瞰的に弄んでいるかの様な作品「孤独未満」で、「ヤングコミック」にデビューする。
続いて6月9日号には、「髪」「雨の少年」「獅子」という短編3作が掲載された。
誌面では “三部作一挙掲載” となっているが、実は、予定されていた宮谷一彦の原稿が落ちた為、急遽その穴埋めとして、この様な変則的な掲載になったと言われている。
同棲中の男女と、訪ねてきた友人との酒の席。彼女の “髪をほどく” という些細な行為が、男に別れを思い立たせるという作品「髪」
安部本人と美代子と思われる二人の、微妙にすれ違う日常を描いた「獅子」
なかでも、少女が女性へと変化していく中で、“髪を切る” という行為で、更に新しい自分を発見する「雨の少年」は、次作「猫」と並んで、この時期の安部作品の中でも突出した名作!
少しのブランクの後、9月22日号には “安部慎一作品集” と言う形で、短編「沈める雪」「猫」が掲載された。
「沈める雪」では、その後の作品で度々登場する美代子の実家の家族(?)がモデルになっている。(もちろん、この作品での設定はフィクションだと思われる)
ただ “待つだけの生活” をおくる老人が、大雪の中、樹氷を見に山へ入る。
深く暗い深雪の山中に踏み込み、“待つ事” に区切りを付けようとするかのような老人。子犬の声に答えて仔猫が「ニャアと言った」と歌われる、道中知り合った娘の唄。
ささやかな繋がりが二人の救いになったのか…? 不思議な余韻を残す短編。
しかし、一般的に評価が高いのは、もう一編の「猫」だろう。
わずか4ページの、セリフのない短編。
無言で向き合う男女。男が女の胸を掴む。その時の女の表情が、二人の関係をすべて表している。 そして、そのすぐそばの猫は、二人との接点が全く無いかの様な世界にいる…
宮谷一彦や真崎守らの単行本 “シリーズ現代まんがの挑戦” を刊行していた三崎書房が立ち上げた劇画誌「月刊 タッチ」
わずか4号で休刊となるが、9月創刊号と11月号に、安部の作品が掲載された。
縦横比が通常とは違う変則的な誌面の為、作品自体も、変則的なサイズになっている。
特にこの1作目「浮気女」は、この絵画的な変則サイズを生かしたコマ割りで、ビジュアル面でのインパクトが増大している。
〈ニュー・ポルノの衝撃〉(??)という見当違いなキャッチと共に、10月13日号に掲載された「軽い肩」
安部と美代子と思われる男女の日常を描いた “私漫画”
漠然とした不安と頼りなさを宿した男の肩に、寄り添う女の重みが、現状へのささやかな安堵感を与える…
性的な描写が多い為、先のキャッチが付けられと思われるが、その描写は実に美しいものと成っている。特にラストの1ページ全体を使って描かれた寄り添う二人のシーンは、絵画的にも秀逸!!
久しぶりに「ガロ」11月号に掲載された「軍刀」も、安部作品の作品の中では評価の高い作品。
「美代子阿佐ヶ谷気分」に続いて「ガロ」に持ち込まれた3作目「美代子」は、当時の編集者だった高野慎三氏の目には過去2作の水準に達していないと映り、未掲載(未発表?)に終わる。
その後「ヤングコミック」誌上で名作を立て続けに発表した後、「ガロ」の為に十分に練り上げられた長編が、この作品。
同級生とその家族が描かれるが、要になるのは戦争体験世代である、その父親。
戦時中、軍刀で「ヒトを殺した…」経験の有る父親と同級生の家族の家を後にし、夜行列車で東京へと戻る主人公(安部自身?)。
ラストの独白「あと少し待てばよい」とは? 単に列車の発車時刻だけではなく、彼自身の思い出と、前世代との決別を意味するのか…?
同時期の「ヤングコミツク」に掲載された「背中」は、これまでの “私漫画” とは異なる設定を持った作品。
(安部自身を思わせる)小説家志望の男と、彼の小説に “遺書” めいた匂いを感じる男。
惨めな現状を更に上塗りするかの様な、無様な彼の背中を足蹴にする男。
二人は、分断された阿部自身なのか?
悲壮な状況をも客観的に俯瞰しているかの様な、冷静ささえ感じてしまう。
続く「冬」は… 少々、掴みどころのない作品…
〈己の存在の不確かさを、より現実性をもって描き続ける心的状況作品〉(??)と言う、苦肉の策とも言えるキャッチが付けられている…
雪の降りしきる放課後の高校。 卒業を控えた二人の男が、剣道場で手合わせをするだけの作品だが、降りしきる夜の雪の光景が、この二人の心情を表すかの様に寒々しく映る。
「月刊 タッチ」第3号(11月号)に巻頭特集 “現代まんがの挑戦” として、政岡としや、ダディ・グースの作品と並んで掲載された「まり子の憧れ」は、美代子と安部とその友人(誰かは不明)をモデルにした “私漫画”。
この後、何度か繰り返し取り上げられる微妙な関係の男女と、もう一人の男と言う構図が使用されている。 (鈴木翁二の実名が使用されている)
「浮気女」と比べると、コマ割りが細かく、変形サイズの掲載誌の特性を生かし切れていないのが残念…
「ヤングコミツク」12月22日号掲載作「屋根」
現在は学生運動に関わり、革マル(派)に殴られ負傷したかつての秀才。 彼が見たというリアルで “かわいそう” な夢の独白を聞く… という変則的な設定の作品。
-未確認作品-
● 1971-⑨ 「富士荘二階」
ヤングギター増刊 OUR SONG NIPPON 1971年10月
【再録単行本】H.『悲しみの世代』(2001年5月 まんだらけ)
単行本で作品は確認できたが、増刊号と言う事なので、掲載誌の形態は不明。わずか2ページのみの作品で、原稿は「月刊 タッチ」と同様の変形サイズ。
1972年作品
1972-① 「サーカス小屋」
ヤングコミック 1972年3月8日号 【再録単行本】B. E. M.
1972-② 「無頼の面影」
ガロ 1972年4月号 【再録単行本】A. F. N.
1972-③ 「一人暮し」
ヤングコミック 1972年4月12日号 【再録単行本】C. E. M. Q.
1972-④ 「悪い夜」
ヤングコミック 1972年4月26日号 【再録単行本】C. E. M.
1972-⑤ 「阿佐ヶ谷心中」
ガロ 1972年6月号 【再録単行本】A. F. N.
1972-⑥ 「久しぶり」
ヤングコミック 1972年7月12日号 【再録単行本】C. L.
1972-⑦ 「薔薇」
漫画フレッシュ 1972年8月号 【再録単行本】C. E.M.
1972-⑧ 「悲しき夏」
ヤングコミック 1972年8月9日号 【再録単行本】C. E. M.
1972-⑨ 「正しき人」
ガロ 1972年9月号 【再録単行本】A.
1972-⑩ 「秋の静かな風景」(小説)
ヤングコミック 1972年11月22日号 【再録単行本】C.
1972-⑪ 「殺人事件」
ヤングコミック 1972年10月11日号 【再録単行本】L.
1972-⑫ 「川」
ガロ 1972年10月号 【再録単行本】A. F.
1972-⑬ 「悲しい日」
秘録SM21CENTURY 1972年10月号 【単行本未収録】
1972-⑭ 「静かなピンク」
ガロ 1972年11月号 【再録単行本】A. F.
1972-⑮ 「15才のミヨちゃん」
SMトップ 1972年11月増刊号 【再録単行本】L.
1972-⑯ 「落下傘」
ガロ 1972年12月号 【再録単行本】A. F.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
「ヤングコミック」72年3月8日号に掲載された
幻想的な悪夢の様な短編「サーカス小屋」
6月に発表する「阿佐ヶ谷心中」
へと繋がる安部自身の葛藤を描いたのだろうか?
うしろめたさが、恐怖の象徴としての
巨大な象として表わされているとも感じられる。
「ガロ」での4作目として
1972年4月号に発表された「無頼の面影」は、
盟友、鈴木翁二と古川益三をモデルにした作品。
若き日のお二人の、ある一日を描いたものだが、
写真を基にしたシャープな絵柄と共に、
断片的な会話の一言一言が、実に生き生きと響いてくる。
(最後に二人が酒を呑むおでん屋は、
1973年の作品「恋愛」にも
かなりデフォルメされて、再び登場する)
「ヤングヤングコミック」4月12日号には、
“ポルノ競作”(??)という、またまた適当なキャッチが付けられて、
「一人暮し」が掲載される。
自殺願望を持つ一人暮らしの女のモノローグだが、
彼女は、本気で死ぬ気は毛頭無さそうである…
単行本で(ワイズ出版から)再録されているものは、
描線が、雑誌掲載時と異なっている様にも見えるが…
もしかしたら、
オリジナルの原稿では無く、トレースされたものかもしれない。
続けて4月26日号に掲載された「悪い夜」
故郷田川を舞台にした作品。
モデルは、やはり美代子の様だが、
設定はフィクションなのか?
この作品も単行本再録時に、トレースされている様に見える。
(オリジナル掲載作の方が、はるかに描線が繊細)
「ガロ」6月号に掲載された問題作「阿佐ヶ谷心中」
美代子の親友と関係を持ってしまった事に対する
安部自身の罪悪感を払拭する為に、
友人と美代子を関係させてしまう…
その屈折した行為は、
その後永きにわたって安部を苦しめる事になる。
安部の衝撃的な告白と言える作品。
この作品の後、
「川」「静かなるビンク」「落下傘」
「ピストル」「恋愛」 という、
阿部と美代子の、危うくも不思議なバランスの上に成り立っていた
阿佐ヶ谷での生活を、断片的に描いた一連の作品が、
72年秋から73年にかけて「ガロ」に掲載されることになる。
前作の反動なのか(?)、これまでの作品とは打って変わって、
全く暗さを感じさせない(ギャグマンガの様でさえある)作品
「久しぶり」が、「ヤングコミック」7月12日号に掲載された。
この作品からは、写真を基に作画する事に疑問を持ち、
極端にデフォルメされた描写になっている。
連日のバカ騒ぎが原因で、
富士荘二階の部屋を追い出され
転居する様子を描いただけの作品。
安部自身が、妙に幼く可愛らしく描かれている…
双葉社が70年から2年間刊行していた月刊誌
「漫画フレッシュ」にも、72年8月号に一度だけ
「薔薇」が掲載された。
高校時代の同級生、美術部と文学部の二人の男と一人の女。
卒業後の三角関係が描かれる。
先の見えない美術部出身の男が食べた
“赤い薔薇” は、彼自身の才能を象徴するものなのか…
「ヤングコミック」8月9日号に掲載された短編
「悲しき夏」
時代劇の設定の短編だが、
少々意味不明…
「ガロ」9月号では、“特集 安部慎一”として、
嵐山光三郎、上村一夫、高信太郎、
永島慎二、鈴木翁二、古川益三
の6人が寄せたコメントと共に「正しき人」が掲載される。
救いようのない作家志願の男・松岡を描いているが、
これは安部本人ではなく、当時の友人をモデルにしているという。
(後日、“ここまで切羽詰まってはいなかった” と述べている)
「ヤングコミック」10月11日号掲載の
「殺人事件」
二件の殺人事件が描かれている。
放課後の小学校での事件はフィクションだと言う事だが、
犯人の用務員が精神病院に入るという設定が、
この後の安部自身を予見していたかの様でもある…
さすがにこの急激な作風の変化の為か、
この作品の後は「ヤングコミック」への掲載は途切れる。
この後76年までは、
ほぼ毎月の「ガロ」への投稿がメインとなる。
10月号掲載の「川」
11月号掲載の「静かなピンク」
12月号掲載の「落下傘」
更に73年の
1月号掲載の「ピストル」
2月号掲載の「恋愛」
これらの作品は、前述の「阿佐ヶ谷心中」前後の
安部と美代子の阿佐ヶ谷生活を断片的に描いた作品。
(ちなみに、これらの作品に仮の時系列を設けて、
一つのストーリーを作り上げたのが、
2009年の坪田義史監督の映像作品『美代子阿佐ヶ谷気分』)
清風書房のSM誌「SMトップ」から依頼された作品
「15才のミヨちゃん」
性的な妄想を描いた小作品。
-未確認作品-
● 1972-⑩ 「秋の静かな風景」(小説)
ヤングコミック 1972年11月22日号
【再録単行本】C.
● 1972-⑬ 「悲しい日」
秘録SM21CENTURY 1972年10月号
【単行本未収録】
1973年作品
1973-① 「ピストル」
ガロ 1973年1月号 【再録単行本】A. F.
1973-② 「恋愛」
ガロ 1973年2月号 【再録単行本】F. N.
1973-③ 「除夜」
コミックミステリー 1973年2月8日号 【再録単行本】C. L.
1973-④ 「月」
ガロ 1973年3月号 【再録単行本】K.Q.
1973-⑤ 「天国」
ガロ 1973年4月号 【再録単行本】K. Q.
1973-⑥ 「日の興奮」
ガロ 1973年5月号 【再録単行本】G. Q.
1973-⑦ 「野の行為」
ヒットパンチ 1973年5月号 【再録単行本】P.
1973-⑧ 「キス」
ガロ 1973年6月号 【再録単行本】F.
1973-⑨ 「海のこちら」
ヒットパンチ 1973年6月号 【再録単行本】C. E.M.
1973-⑩ 「巨人」
ガロ 1973年8月号 【再録単行本】K. Q.
1973-⑪ 「村上の休む日」
ガロ 1973年9月号 【再録単行本】K. Q.
1973-⑫ 「トマト」
ガロ 1973年10月号 【再録単行本】H. K. Q.
1973-⑬ 「よし子の幸福」
ガロ 1973年11月号 【再録単行本】K. Q.
1973-⑭ 「飛ぶ男」
Men 1973年12月号 【再録単行本】H.
1973-⑮ 「悲しみの世代」①
ガロ 1973年12月号 【再録単行本】D. H
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
この年の1月、
阿部と畠中美代子は結婚。
「ガロ」1月号掲載の「ピストル」と、
2月号掲載の「恋愛」
「恋愛」では、一時的な(?)別居も描かれている。
毎回絵柄が変わり、作風にムラが有るのは
当時の安部の迷いの様にも見受けられる。
この年「ガロ」以外に発表された作品は、
双葉社の月刊誌「コミックミステリー」に
一度だけ掲載されたこの作品「除夜」
を含めて全4作のみ。
初期とは全く別人が描いたかの様な作風が、
一般誌には受け入れられにくく成っていたのかもしれない。
過去のトラウマを抱えた男の、
故郷へ戻った大晦日の一夜の物語。
最後のページ、戻らない男を一人待つ少女と、
除夜の鐘の音が印象的な名作。
モデルは鈴木翁二だと言われている。
「ガロ」3月号掲載作「月」
地元田川を舞台にした、
安部と美代子が高校時代のストーリー。
久しぶりの長編。
三橋誠(シバ)と、古川益三をモデルにした二人組が登場する。
続く「ガロ」4月号掲載作「天国」も長編作品。
前半に描かれた二つの “(事故)死” との対比して、
後半は結婚の為に帰省した安部と美代子が描かれている。
「体の中に憎しみがひとつあったら、ボクは生きていけるよ」
「ボクは今、ミーちゃんが恐い」
安部の印象的なセリフの後、
ラスト2ページ見開きで描かれた、
夜の炭鉱町と連なるボタ山は、安部と美代子の原風景なのか?…
長編2作の後、「ガロ」5月号に唐突に発表された
時代劇作品「日の興奮」
芹沢鴨とその愛人の殺害で終わる
新選組の血みどろの粛清劇を描いた異色作。
さらに「ガロ」6月号と「ヒットパンチ」(檸檬社)6月号に
同時期に発表された2作品「キス」「海のこちら」も、
これまでとは作風が違う物になっている。
「キス」では、
異国の城でのパーティーで起きた
新婦殺人事件が語られる。
語り部の “ヨッパライ” は、ラストでは外套を羽織り
屋根から屋根へと飛び移りながら去っていく…
突然、鈴木翁二的な世界が描かれている。
更に「海のこちら」では、
画風もこころなしか鈴木翁二風になっており、
普通の女への変化を見限る “無頼の男” には、
つげ忠男の影響さえ見えてしまう。
共に、安部の漫画家としての迷いを感じさせる作品…
ひと月のブランクの後、
「ガロ」8月号に発表された「巨人」は、
一転してダークでカルトな作品となっている。
ラストの血みどろの展開。
不気味に描かれた巨大な鯉。
冷たく暗いプール…等々
安部の精神が分裂の兆しを見せ始めている。
更に続く9月号に掲載された短編「村上が休む日」
病気の妻を抱える男の
性的な妄想が描かれている。
この年の秋、安部は創作に行き詰まり、
美代子と共に突然、福岡へと戻っている。
「ガロ」10月号掲載の「トマト」と、
11月号掲載の「よし子の幸福」 は、
福岡市中央区伊崎(実家からは少し離れている)への
転居後に描かれたのではないかと思われる。
後述の、雑誌「クイック・ジャパン」の記事
“消えたマンガ家・第7回”によると、
福岡へ戻ったのは、この年の暮れとなっているが、
「トマト」では、阿佐ヶ谷を引き払う様子とも取れる場面が見られる。
また、何よりもこの2作については、
写真を基にした、すっきりしとした絵柄に戻り、
ストーリーも穏やかなものになっている。
阿佐ヶ谷での、精神を病むほどの自堕落な生活から離れた、
地元福岡での生活による
“転地療法” の効果が表れている様にも見受けられる。
しかし、安部の精神状態は完全には回復する事は無く…
「ガロ」12月号からは、未完の問題作「悲しみの世代」の連載が始まる。
姉(良子)と妹(種子)を軸に、
作家(漫画家?)鮫島、種子の恋人・武田等の、
屈折した関係が描かれている。
少なくとも74年の連載4回目までは、
一応ストーリー(らしきものも)の辻褄も合っていたが…
-未確認作品-
● 1973-⑦ 「野の行為」
ヒットパンチ 1973年5月号
【再録単行本】P.『安部慎一短編集2 キツネにばかされた女』
(2016年8月 ギャラリー白線)
● 1973-⑭ 「飛ぶ男」
Men 1973年12月号
【再録単行本】H.『悲しみの世代』(2001年5月 まんだらけ)
「飛ぶ男」については、単行本で作品の確認はできたが、
絵柄はかなり雑で、コマ割りも大きめ。
掲載誌のサイズ自体が小さいものだったと思われる。
1974年作品
1974-① 「漕げばボートは行く」
週刊漫画サンデー 1974年1月12/19日号 【再録単行本】H.
1974-② 「悲しみの世代」②
ガロ 1974年1月号 【再録単行本】D. H.
1974-③ 「悲しみの世代」③
ガロ 1974年3月号 【再録単行本】D. H.
1974-④ 「悲しみの世代」④
ガロ 1974年4月号 【再録単行本】D. H.
1974-⑤ 「悲しみの世代」⑤
ガロ 1974年5月号 【再録単行本】D. H.
1974-⑥ 「悲しみの世代」⑥ ⑦M~N議論
ガロ 1974年6月号 【再録単行本】D. H.
1974-⑦ 「悲しみの世代」⑧
ガロ 1974年7月号 【再録単行本】D. H.
1974-⑧ 「悲しみの世代」⑨
ガロ 1974年8月号 【再録単行本】D. H.
1974-⑨ 「悲しみの世代」⑩スモモの離し方 ⑪プールの説明又は野心の失敗
ガロ 1974年9月号 【再録単行本】D. H.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
週刊漫画サンデー1月12日/19日合併号には、
同時期に描かれたと思われる
「漕げばボートは行く」が、
“第3回漫画サンデー賞 佳作一席”として掲載されている。
(この年「ガロ」以外の作品掲載は、この一作のみ)
まるで新人作家の入選作の様な扱いではあるが、
一般商業誌の、当時の安部作品に対するスタンスは
残念ながらこの様な物だったのか…
冷めた関係の夫婦(?)が、
夫の思い出の場所である滝を訪れる。
妻の首を絞め、滝つぼへ投げ落とすという、
ラストの恐ろしい妄想(?)はもちろん、
食い違うセリフにも意味不明な箇所が多い。
当時の安部の分裂した精神状態が現れた作品となっている。
「ガロ」誌上で73年12月号から74年9月号まで、
「悲しみの世代」は、9回(全11話)掲載された。
(74年の「ガロ」2月号は、
掲載作すべてが再録作品という形態の為、2月号には未掲載)
第4回までは、かろうじて安定しているが…
第5回は、突然絵のタッチが変わり、
唐突な登場人物紹介等、作品としては少しずつ壊れ始めている。
第6回以降は、急速に意味不明な展開が増える。
安部の精神の分裂状態は加速して行き、
9月号の第11回で、遂に中断となる…
実は、わたしはちょうどこの時期に
同時代的に「ガロ」誌上で
この一連の作品を読んでいた。
もちろん、
当時は作者の精神状態の事など知る由もなかったが、
難解でありながら、シュールで分裂症的なこの作品には
かなりの衝撃を受けていたことは確かである。
一般的には、なかなか受け入れ難い作品ではあるが、
初期の諸作品と並んで、
安部の代表作と言っても良いのではないだろうか。
(後に1987年になって
「夜行⑮」(7月号)に唐突に掲載された
「悲しみの世代 ⑪ 短縮論」は、
「ガロ」に掲載された一連のシリーズとの関連は感じられない。)
この年の年末には、
安部と美代子は、再び上京し阿佐ヶ谷に戻っている。
1975年作品
1975-① 「筑豊漫画・愛蓮の家族」
ガロ 1975年1月号 【再録単行本】I.
1975-② 「石田キヌの妊娠」上の一
ガロ 1975年7月 【再録単行本】I.
1975-③ 「石田キヌの妊娠」上の二
ガロ 1975年8月 【再録単行本】I.
1975-④ 「石田キヌの妊娠」中の一
ガロ 1975年9月 【再録単行本】I.
1975-⑤ 「石田キヌの妊娠」中の二
ガロ 1975年10月 【再録単行本】I.
1975-⑥ 「石田キヌの妊娠」中の三
ガロ 1975年11月 【再録単行本】I.
1975-⑦ 「石田キヌの妊娠」中の四
ガロ 1975年12月 【再録単行本】I.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
この年から翌年初めにかけて、
「ガロ」の編集担当から提案されたという、
地元である筑豊炭田を舞台とした、
“プロレタリア文学” ならぬ
“プロレタリア漫画”「筑豊漫画」の連作を発表する。
「ガロ」1975年1月号には、読み切り作品として
「筑豊漫画・愛蓮の家族」を発表。
暗くシュールな作品だが、
ストーリーはしっかり組み立てられている。
7月号からは、設定を変更して長編作品
(筑豊漫画 二)「石田キヌの妊娠」の連載が始まる。
明治時代の炭鉱を描いた作品の為、
安部は資料と格闘しながら執筆していたという。
連載開始時には、扉に登場人物紹介が描かれており、
60年代の「カムイ伝」を意識していた様にも思え、
それなりの長編大作を構想していたと思われる。
しかし、相変わらず回を追う毎に、
絵のタッチが変化し、ストーリーの展開も曖昧なものに成って行った。
また、資料からの引用と思われる書き込みも増えるが、
ストーリーとかみ合わない部分も目立つ様になる。
1976年作品
1976-① 「石田キヌの妊娠」中の五
ガロ 1976年1月 【再録単行本】I.
1976-② 「遠賀川と田川盆地」
跋折羅 5号 1976年1月 【再録単行本】H.
1976-③ 「筑豊居合道 – 柿の木の下、通過」
ガロ 1976年2・3月合併号 【再録単行本】I.
1976-④ 「筑豊居合道 – 坂をかけ登る 前編」
ガロ 1976年4月 【再録単行本】I.
1976-⑤ 「私生活」
週刊漫画Times 1976年5月22日号 【再録単行本】C. E. M. N. Q.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
「ガロ」76年1月号の「石田キヌの妊娠」中の五 で、
一旦この章は完結する。
(中の五で終わり下が無い…)
同時期に、カルトな季刊(?)マンガ漫画誌「跋折羅」第5号に
地元田川を舞台にした4ページの短編
「遠賀川と田川盆地」が掲載されている。
「跋折羅」は、印刷・製本まで手作りで行っていた
ほぼミニコミ誌とも言える雑誌で、
鈴木翁二や勝川克志も作品を掲載していた。
「ガロ」2・3月合併号の「筑豊居合道 – 柿の木の下、通過」と、
「ガロ」4月号の「筑豊居合道 – 坂をかけ登る 前編」は、
「石田キヌの妊娠」の続編として掲載された。
しかし、回を追うごとに絵のタッチは荒くなり、
ストーリーも掴み処が無いものになる。
結局「筑豊居合道 – 坂をかけ登る」の後編は
描かれる事無く「筑豊漫画」のシリーズも
中断となり、未完に終わる。
この年の初めに、
「ガロ」の初代編集長・長井勝一氏が心筋梗塞で入院し
実質的に南伸坊が編集長と成った事も関係してか、
この後「ガロ」への作品掲載がとぎれる。
芳文社が発行する「週刊漫画Times」5月22日号には、
唐突に過去の作品「私生活」が掲載されている。
内容や絵柄から推測すれば、
73年の後半、福岡市伊崎へ戻った頃に描かれた物だと思われる。
1977年作品
1977-① 「意趣返し」
漫画エロトピア 1977年2月3日号 【再録単行本】G. H. Q.
1977-② 「愛奴」
漫画エロトピア 1977年4月21日号 【再録単行本】G. Q.
1977-③ 「獣愛」
漫画エロトピア 1977年6月2日号 【再録単行本】G. Q.
1977-④ 「親子将棋」
Joy Magazine 1977年11月号 【再録単行本】G.
1977-⑤ 「美代子、町に帰らず」
Joy Magazine 1977年12月号 【再録単行本】E.
1977-⑥ 「あいびき」
漫画エロトピア 1977年12月15日号 【再録単行本】G.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
安部は心を病む中で、
高橋信次が創設した宗教団体GLAに傾倒していく。
また、この年「漫画エロトピア」の平田昌兵と出会い、
当時サブ・カルチャーとして台頭し始めていた
“エロ漫画誌” への作品発表を始める。
KKベストセラーズが発行していた
「漫画エロトピア」には、
平田昌兵から自由に描く様に勧められ、
久しぶりに力の入った作品を発表する。
「漫画エロトピア」では、
2月3日号に「意趣返し」
4月21日号に「愛奴」
6月2日号に「獣愛」
という3作を立て続けに発表している。
いずれの作品も、
かなりカルトでダークなストーリーを持っており、
当時の安部の病んだ精神状態が反映されている。
また、
異常なまでに細密に書き込まれた絵は病的でさえある。
檸檬社発行の “エロ漫画誌”「Joy magazine」にも、
11月号に「親子将棋」
12月号に「美代子、町に帰らず」
という2作品を発表している。
少しのブランクの後の、この2作では、
前3作の様な病的な描き込みは治まっている。
当時の安部は、
“宗教” と “エロス” と言う相反するテーマの中で、
悩みながら描いていたという。
「美代子、町に帰らず」では、
前半の阿佐ヶ谷のアパートのシーンに、
71年の作品「富士荘二階」と同一のシーンが
何コマも使用されている。
おそらく同じ写真を基に描いたものと思われるが、
残念ながら71年の絵の方が、はるかに美しい…
更にこの年の冬、
「漫画エロトピア」12月22日号に発表された
「あいびき」は、
珍しく穏やかな作風となっており、
“宗教” の影響が見え始めている。
この作品を最後に、
「漫画エロトピア」への掲載は途切れる。
1978年作品
1978-① 「心」
漫画大快楽 1978年1月号 【再録単行本】G. H.
1978-② 「誘拐」
劇画アリス 1978年6月号 【単行本未収録】
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
この年、
園頭広周が主催するGLA系宗教団体「国際正法協会」へ
正式に入信し、執筆をやめ帰省する事を指示される。
(その後は、脱会・再入信を繰り返す)
故郷田川では、
父親の会社や、友人の父の会社(チロルチョコ)などに勤務する。
この年の発表作品は2作のみ。
檸檬社発行の “エロ漫画誌”「漫画大快楽」は、
当時、「漫画エロジェニカ」「劇画アリス」と共に
“三大エロ劇画誌” と呼ばれていた。
「漫画大快楽」1月号掲載の「心」も、
異様なほど前向きな登場人物達に、
“宗教” の影響が表れている。
これは、帰省する前に描かれた作品だとおもわれる。
-未確認作品-
● 劇画アリス 1978年6月号
「誘拐」
1979年作品
1979-① 「友からの手紙」
ガロ 1979年7月号 【単行本未収録】
帰省後も宗教色の強い作品を
「ガロ」に投稿していたというが、
そのほとんどは掲載を見送られている。
唯一「ガロ」7月号に掲載されたのが
「友からの手紙」
どう見ても異常な作品!!
あの安部と美代子が、全くの別人の様に描かれ、
友の子供の誕生を祝福する…
“宗教” の布教漫画の様なこの作品を、
あえて掲載した「ガロ」の編集部には、
かつてのリリシズム溢れる無頼漢“安部慎一”の
変貌と狂気を示そうと言う意図が有ったのだろうか?
1980年作品
1980-① 「ポルノ劇画家山村真介」
漫画大快楽 1980年6月号 【再録単行本】G.
1980-② 「遠い激情」
エロトピア・デラックス 1980年6月号 【再録単行本】L.
1980-③ 「泣き虫金太」
ガロ 1980年7月号 【単行本未収録】
1980-④ 「淫らな娘」
エロトピア・デラックス 1980年8月号 【再録単行本】G.
1980-⑤ 「心のカルテ」
ガロ 1980年8月号 【単行本未収録】
1980-⑥ 「白い悪魔」
エロトピア・デラックス 1980年10月号 【再録単行本】L.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
この年、所沢市へ転居。
「エロトピア・デラックス」や「漫画大快楽」
と言った “エロ漫画誌” への作品発表と並行し
「ガロ」にも投稿を続ける。
総合失調症の進行と、“宗教” の影響下で
描かれたこの時期の作品は、
ストーリー・絵柄共に病的なものを感じさせる。
「漫画大快楽」6月号掲載の
「ポルノ劇画家山村真介」
商業誌を意識したストーリー展開ではあるが、
随所に “宗教” の影響が見受けられる。
消えたポルノ劇画家
(後に安部自身も消えた漫画家と呼ばれることになるが…)
が描いた作品が「イエスがいく」と言うのも、
普通の感覚ではない。
KKベストセラーズから独立した
ワニマガジン社が発行していた
「エロトピア・デラックス」に発表の場を移し、
6月号に「遠い激情」
8月号に「淫らな娘」
10月号に「白い悪魔」
という3作が掲載された。
「エロトピア・デラックス」では、
編集サイドからの絵コンテ作成も求められ、
「漫画エロトピア」の様に自由には
描くことが出来なかった様で、
ストーリーは、一応商業誌用に完結している。
しかし、絵柄、特に登場人物の顔は、
病的なほど異様に描かれている。
一方「ガロ」に掲載された
7月号「泣き虫金太」
8月号「心のカルテ」
2作は、前年の「友からの手紙」同様
“宗教” 色が強い異様な作品。
さすがにこの後、「ガロ」での掲載は途切れる。
1981年~1982年作品
1981-① 「結婚物語」
ヤングコミック 1981年3月25日号 【再録単行本】L.
1981-② 「麻雀物語」
近代麻雀オリジナル 1981年6月号 【単行本未収録】
1981-③ 「僕はサラ金の星です!」
エロトピア・デラックス 1981年6月号 【再録単行本】L. O.
1981-④ 「堕ちる… その時!」
エロトピア・デラックス 1981年12月号 【再録単行本】G.
1982-① 「いらっしゃいませ」
エロトピア・デラックス 1982年12月号 【再録単行本】L.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
この時期になると、
もはや、作者である安部自身も
自らの作品を執筆した記憶が無くなる程
精神的に混乱していたという。
72年以来久々に
「ヤングコミック」3月25日号に掲載された
「結婚物語」も、70年代初頭とは全く別人の作品かと思わせる。
やはり “宗教” の影響が現れており、
“ほのぼのとした男と女のイイお話” という
キャッチ通りの作品。
これは、以前に投稿するも掲載が見送られていた
(「ヤングコミック」サイドとしては当然の判断?)作品を、
原稿を落とした他の作家の作品の穴埋めに
急遽掲載した物らしい…
ちなみに、
この作品に登場するおでん屋の主人は、
友部正人の73年のアルバム『にんじん』の
ジャケットに写ってる人物だと言うが…
全然似ていない!!
「エロトピア・デラックス」1981年6月号掲載の
「僕はサラ金の星です!」は、
“特殊漫画家” 根本敬の発掘活動によって
一躍有名になってしまった怪作!!
事の始まりは1996年の12月。
中野ブロードウェイ3階のサブ・カル系書店
“タコシェ(TACO ché)” の店頭に
根本敬氏自らが作成した
「僕はサラ金の星です!」のコピー本が、
自由に読める様にぶら下げられたという。
10年以上前のマイナー誌に掲載された
このレアな(?)作品の再発見は、
1997年の「クイック・ジャパン」の記事
“消えたマンガ家・第7回”へと繋がり、
阿部慎一再評価のきっかけとなった。
しかし…作品の内容はと言えば…
安部自身が、「自分が書いた物とは思えない…」
と言うほど錯乱した精神状態で描かれた作品だけに、
とにかく、絵もストーリーも錯乱している!!
さすがに “特殊漫画家” 根本敬が最高傑作(?!) と
評価するだけあって、超カルトな作品である事は確かだが…
(この作品は、その後2003年に
青林工藝社からの単行本でめでたく再録されている。)
その後も、「エロトピア・デラックス」には、
1981年12月号に「堕ちる… その時!」
1982年12月号に「いらっしゃいませ」
という怪作が掲載されている。
いずれも、同じような精神状態で描かれた作品の為、
絵もストーリーも超カルト!
個人的には、唐突に女のユーレイがストーリーに絡む
「いらっしゃいませ」の方が、
「僕はサラ金の星です!」よりカルト度が高い様に思えるのだが…
82年の夏、安部の実家の事業が失敗し、
錯乱し、本格的に総合失調症を発病。
その後、田川市の実家へ帰省する。
この時に、過去の写真や原稿を燃やしてしまった
と言われている。
(単行本への再録が難しいのはこの事件のせいか?)
-未確認作品-
● 近代麻雀オリジナル 1981年6月号
「麻雀物語」
1987年作品
1987-① 「悲しみの世代 ⑪ 短縮論」
夜行⑮ 1987年7月号 【再録単行本】D. H.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
元「ガロ」の編集者、高野慎三氏が発行していた
雑誌「夜行」15号に、突然掲載された
「悲しみの世代 ⑪ 短縮論」
「ガロ」に連載されていた未完の長編
「悲しみの世代」との直接的な繋がりは感じられない。
珍しくすっきりとした絵柄で、
明るいエロティック・アートと成っている。
執筆時期や、掲載の経緯は不明。
1990年代作品
1993-① 「混浴の思想」
ガロ 1993年7月号 【再録単行本】J.
1993-② 「美代子田川気分」
ガロ 1993年8月号 【再録単行本】H. J. N. Q.
1996-① 「長井さんと美代子」
コミック・ボツクス 1996年5月号 【単行本未収録】
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
「ガロ」1993年5月号の特集の為、
青林堂新社長・山中潤が田川を訪問、
安部へのインタビューを行う。
特集には「美代子阿佐ヶ谷気分」が再録されている。
山中潤の訪問がきっかけで、
安部は創作を再開。
「ガロ」へ新作の投稿を行うが、
掲載されたのは、
1993年7月号「混浴の思想」
1993年8月号「美代子田川気分」
わずか2作のみに終わっている。
「美代子田川気分」は、
以前の様に写真を基に描かれた
繊細な絵柄と、穏やかな展開の小作品。
しかし、
総合失調症の治療薬の投薬と、
宗教的な妄想のせいか、
作品の出来にムラが有り、
完全復活とは成らずに終わっている…
1996年1月に、惜しまれながら亡くなった
「ガロ」の初代編集長であり、青林堂の創業者、
長井勝一氏の追悼特集号となった
「コミック・ボツクス」5月号には、
数々の漫画家の追悼作品と共に、
わずか1ページの作品だが、
「長井さんと美代子」が掲載された。
1997年には、サブ・カル系雑誌
『Quick Japan』(クイック・ジャパン)Vol.13で、
“消えたマンガ家・第7回” として、
阿部慎一が取り上げられた。
(きっかけは、前述の根本敬による発掘活動)
編集長の赤田祐一とライターの大泉実成が、
田川の安部の実家を訪れた際のインタビューが掲載されている。
(1971年の作品「雨の少年」も再録されている。)
2000年~2001年作品
2000-① 「車」
幻燈② 2000年1月(コミック・ボツクス1996年未掲載) 【再録単行本】M. Q.
2001-① 「続美代子田川気分」
幻燈③ 2001年 【再録単行本】Q.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
2000年の春。
旧友・古川益三が、まんだらけ出版からの単行本
『悲しみの世代』刊行に先駆けて田川を訪れる。
旧知の仲ならではの、遠慮のないインタビューが
2001年の単行本に掲載されている。
高野慎三氏が「夜行」の後継誌として
北冬書房から刊行した雑誌「幻燈」には、
2000年2月の第2号に「車」
2001年5月の第3号に「続美代子田川気分」
の2作が掲載されている。
「車」は、「コミック・ボツクス」1996年5月号で
“次号に掲載” と告知されながら未発表に終わっていた作品。
後半は、未発表作品「迫真の美を求めて」
と同様の展開になっている。
高野慎三氏は、安部のデビュー当時から、
「ガロ」の編集者として交流が有り、
その後も安部作品の単行本化にも尽力している。
またこの年の後半には、
青林工藝社が「ガロ」の後継誌として発行している
雑誌「アックス」誌上での、
小説(エッセイ?)「田川生活」の連載が始まっている。
(2011年まで断続的に継続)
2002年作品
2002-① 「ポルノ」「友達のエッチ(根本敬との共作)」
アックス Vol.27 2002年6月号 【単行本未収録】
2002-② 「凄惨なる宴 (根本敬との共作)」
アックス Vol.28 2002年8月 【再録単行本】L.
2002-③ 「哲学 (根本敬との共作)」
アックス Vol.29 2002年10月 【単行本未収録】
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
湯浅学と根本敬が雑誌「BUBKA」の取材で
田川の安部を訪れたことがきっかけで、
根本敬との共作(?)作品を「アックス」に発表する。
アックス Vol.27 (6月)には、安部単独作「ポルノ」と
根本敬との共作「友達のエッチ」り2作
アックス Vol.28 (8月)に、根本敬との共作「凄惨なる宴」
アックス Vol.29 (10月) に、根本敬との共作「哲学」
3号連続で4作が発表された。
しかし、いずれも根本敬の特殊漫画に、
安部が、脈絡のない絵を添えた…
と言うだけの作品になっている。
2003年作品
2003-① 「ヤス子」「結婚生活」
アックス Vol.31 2003年2月号 【単行本未収録】
2003-② 「孤独」
アックス Vol.32 2003年4月号 【単行本未収録】
2003-③ 「夫婦刑事(めおとでか)」
単行本 L.『僕はサラ金の星です!』
2003-④ 「私」
アックス Vol.36 2003年12月号 【再録単行本】O.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
前年の根本敬との共作がきっかけとなり、
「アックス」に作品を発表する。
この後、安部の作品の掲載は「アックス」のみとなる。
(「ガロ」に連載していた小説「聖書」も、
2002年10月号での「ガロ」廃刊に伴い中断)
アックス Vol.31 (2月)に掲載された短編
「ヤス子」「結婚生活」
2作共に、リハビリ明けと言っても良いのか?…
相変わらず分裂した作品。
アックス Vol.32 (4月)の「孤独」
安部自身の現在を独白する短編。
今回は写真を基に描いている。
単行本『僕はサラ金の星です!』
発売に合わせて書き下ろされた新作
「夫婦刑事(めおとでか)」
絵柄は安定しているが…
とにかく、タイトルも設定もストーリー(?)も
かなり錯乱した物になっている。
ある意味、このカルトな単行本向きの作品とも言えるが…
同じ年の年末
アックス Vol.36 (12月)掲載の「私」
この作品は、久しぶりに奥様(美代子)の協力で、
新たに撮影した写真を基に描かれたモノローグ。
2004年作品
2004-① 「平成のバカ侍」(三本美治と共作)
アックス Vol.38 2004年4月号 【単行本未収録】
「男」(三本美治と共作)「父(ヤツ)」(三本美治と共作)
アックス Vol.38 2004年4月号 【再録単行本】P.
2004-② 「彼」(三本美治と共作)
アックス Vol.39 2004年6月号【再録単行本】P.
2004-③ 「陽子物語」
アックス Vol.42 2004年12月号 【単行本未収録】
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
投薬の影響による手の震えの為
細密な背景の作画が不可能となり、
人物のみ安部が作画し、
背景を三本美治が描くという競作を試みる。
アックス Vol.38 (4月)には、短編3作
「平成のバカ侍」「男」「父(ヤツ)」
続いてアックス Vol.39 (6月)にも
「彼」
が発表される。
この4作のうち「平成のバカ侍」だけは、
相変わらずの分裂作品(?)だが、
安部の独白「男」
息子の目線で描かれた「父(ヤツ)」
市井の牛乳屋の日常を描いた「彼」
この3作は、かろうじて作品の体を成している。
同年末からは、
背景を描くことを諦めたのか
人物のみのモノローグ作品を
2005年まで「アックス」に描き続ける。
2005年作品
2005-① 「純子伝」
アックス Vol.43 2005年2月号 【単行本未収録】
2005-② 「楽園」
アックス Vol.44 2005年4月号 【単行本未収録】
2005-③ 「アダムとイブ」
アックス Vol.45 2005年6月号 【単行本未収録】
前年末から継続した作風が続くが、
徐々に分裂したもの(?)に成っていく。
アックス Vol.45 (6月)掲載の「アダムとイブ」
に至っては、わずか2ページの意味不明な作品。
もはや、連載小説(エッセイ)「田川生活」の添え物の様になっている。
この作品を最後に、現在まで
安部の漫画作品が発表される事は無くなってしまった…
2022年作品
(2022年9月29日 追記)
2022-① 「活動と命」
「アックス」 Vol.148 2022年8月号
わずか4ページながら久しぶりの新作!!
作風は相変わらず意味不明な部分も多く、
作画も投薬のせいか、かなり荒く乱れた物になっているが、
愛犬の死や孫の誕生が断片的に描かれている。
巻末にも、ほかの執筆者に混ざって、短いコメントも書かれている!!
貴重な生存確認作品!!!
2024年作品
(2024年9月26日 追記)
2024-①② 「神」「死にぞこない」
「アックス」 Vol.160 2024年9月号
約1年ぶりに「アックス」に掲載された各4ページずつの2作品。
(作風から見て、前年の「活動と命」と同時期か? あるいはその後の新作?) 詳細は不明ながら、同号に掲載されたご子息・安部コウセイさんのエッセイから引用させて頂けば…
さあ! 死ぬまで描け!
アベシン!
ゆけ! アベシン!
小説・エッセイ
「海辺の人」
ガロ 1993年10月号・11月号【単行本未収録】
「第二病棟常夜灯」
ガロ 1994年1月号・2月号・4月号【単行本未収録】
「背徳の美徳」
ガロ 1994年5月号【単行本未収録】
「白狼と呼ばれた女」
ガロ 1994年6月号・7月号・8月号【単行本未収録】
「海に似た男」
ガロ 1995年1月号【単行本未収録】
「聖書」(全25回)
ガロ 2000年1月号~2002年10月(最終)号 【再録単行本】I.
「田川生活 (田川ローカル)」
アックス Vol.23 2001年10月号~Vol.79 2011年2月号 【単行本未収録】
「椿」
単行本 R.『気分』2012年1月
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
ガロ 1993年10月号・11月号に掲載された
美代子が登場するポルノ小説ともいえる作品。
ところどころに宗教の影が見受けられる…
ガロ 1994年1月号・2月号・4月号に3回にわたって掲載。
安部自身の総合失調症での入院体験を元に書かれた作品。
ガロ 1994年5月号掲載の読み切り作品。
妻以外の女性との浮気を描いているが、
最後には男の夢に釈迦が現れる…という宗教の影響がみられる。
ガロ 1994年6月号・7月号・8月号に3話掲載。
筑豊漫画の延長作。
ガロ 1995年1月号掲載の短編。
やはり安部自身をモデルにしたと思われる作品。
ガロ 2000年1月号から2002年10月(最終)号まで
描き続けられたエッセイ。
かなり宗教色が強くなっており、一部意味不明な部分も…
こちらも、アックス誌上で、
2001年10月号(Vol.23) から、2008年まで
断続的に描き続けられた宗教色の濃いエッセイ。
2008年以降は「田川ローカル」として2011年2月号(Vol.79)まで継続。
原作 (作画 : 西野空男・斉藤種魚)
作画 : 西野空男
「フヨウ」 月刊・架空 2010年4月号
「耳鳴」 月刊・架空 2010年5月号
「西日」 月刊・架空 2010年6月号
「夜曲」 月刊・架空 2010年7月号
「家出前夜」 月刊・架空 2010年8月号
「理知という名の赤い花」 月刊・架空 2010年9月号
「深夜の栄光」 月刊・架空 2010年11月号
「珍犬バナナ」 月刊・架空 2010年12月号
「愛は悲しみを越えず」 月刊・架空 2011年1月号
「雪中記」 幻燈⑫ 2011年11月
「気分」 単行本『気分』2012年1月
作画 : 斉藤種魚
「愛」 月刊・架空 2010年7月号
以上【再録単行本】R.
(【再録単行本】の詳細は、別項
天然なる狂気・安部慎一 ② (単行本収録作一覧) を参照)
2005年(?)以降は、
総合失調症治療の為に継続していた投薬により、
作画が困難となる…
高野慎三氏が北冬書房から断続的に刊行していた
「夜行」(1972~1995)・「幻燈」(1998~)で
執筆していた漫画家・西野空男が作画を担当し、
自らが中心となって刊行するミニコミ誌「架空」に、
2010年から作品を発表している。
この時期の作品は、ワイズ出版の単行本「気分」で、
まとめて読むことが出来るが、これらは、
西野空男の作品として捉えるべき物の様に思われる。
また、「架空」2010年7月号には、
同じく「夜行」・「幻燈」系の漫画家斉藤種魚による作品
「愛」が発表されているが、
タイトル通り斉藤の安部への愛が溢れる作品となっている。
なおこの号では、安部慎一の特集が組まれており、
西野空男・斉藤種魚両氏の作画作品と共に、
インタビュー、73年の「海のこちら」の再録が
掲載されている。
わたし自身が10代の頃に、
その強烈な作品と出会ってしまって以来、
現在に至るまで心中で微かに疼き続ける古傷。
今回、それを恐る恐る確認するかのごとく、
漫画家・阿部慎一の作品を
年代に沿って(可能な限り)読み返してみた。
正直なところを言ってしまえば、
私が魅了されていた漫画家・阿部慎一の世界は、
70年代半ばで終わっていたのかもしれない。
しかし反面…
70年代後半の迷走する作品群。
82年の総合失調症発病と帰省後の、
散発的な存在確認の様な諸作品。
そして現在も
病気と宗教という問題と葛藤しながら、
表現活動を続けようとする老いた無頼漢。
そのすべてを吞み込んでこそ
表現者・安部慎一の世界が成立し得るのではないかとも思えた。
「表現者・安部慎一」は、未だ未完のままである…
Great content! Keep up the good work!