A-Musik(アー・ムジーク)-『E Ku Iroju(エクイロジェ)』

竹田賢一氏率いるユニット
“A-Musik(アー・ムジーク)”

わたしの様なノン・ポリが、
この様ないい加減なブログで紹介するのは、
いかがなものかと思いつつも…

84年にリリースされた、
『E Ku Iroju(エクイロジェ)』を、
一聴した時の衝撃を、どうしても伝えたくて、
あえて紹介させて頂くことにした。

当初、
吉祥寺のライヴハウス『マイナー』の店主だった
佐藤隆史氏の自主盤レーベル
ピナコテカ・レコードからの
リリースが予定されてと記憶している。

実際、ピナコテカのフリーペーパー(?)
“アマルガム” 83年の12号では、
83年9月のリリースが告知されている。

今回、改めて調べてみたところ、
この作品の前にリリースされた、
山崎晴美率いる “TACO(タコ)” のアルバム
『TACO』が原因で、83年10月に、
ピナコテカ・レコードは活動を停止している。
(やはり、「きらら」の歌詞が問題だった様だ…)

その為、既に完成していた
『E Ku Iroju(エクイロジェ)』は、
翌年84年になってから、
バルコニー・レコードを通してリリースされる事になった様だ。

わたしの地元の関西では、
流通経路が限られていた
ピナコテカ・レコードに比べて、
当時は比較的広く流通していた
バルコニー・レコードからのリリースと言う事もあり、
大阪・梅田の大手書店の自主盤コーナーにも
普通に並んでおり、
手軽に入手する事ができた様に記憶している。

ちなみに、タイトルの
“E Ku Iroju(エクイロジェ)” とは、
困難な状況下の人々を応援する言葉。

ユニット名の
“A-Musik(アー・ムジーク)” は、

ドイツ語で、
クラシック等の純音楽を意味する
E-Musik (erste Musik)

フォーマット化された大衆音楽
U-Musik (unterhaltunge Musik)

そのどちらでも無い音楽の為の造語

“A-Musik(アー・ムジーク)” “A-” は、
アナーキー、アンチ、アーティフィシャル
の頭文字と捉える事もできる。

竹田賢一氏が、当時並行して主宰していた
“ヴェッダ・ミュージック・ワークショップ”
が、即興演奏に特化していたのに対して、

1983年5月5日 京大西部講堂

A-Musik(アー・ムジーク)” は、
敢えてオリジナル曲は扱わず、
世界の民衆に浸透している、
本来の意味での
ポヒュラー・ミュージックのカバー
を、
楽曲として演奏するユニット。

八木 康夫氏による
アルバム・ジャケットの、
インパクトもさることながら、

レコード盤のレーベルも、
A面が、赤の菊の御紋!!
B面が、黒の菊の御紋!!
と言う、とんでもないデザイン。

とにかく、
レコードのA面最初の2曲で、
完全に圧倒されてしまった!!

1曲目
「不屈の民 (El Puebro Unido Jamas Sera Vencido)」
(The United People Will Never Be Defeated)

立ち上がりは穏やかな曲調ながら、
エレクトリック大正琴の響きが、
不穏な予兆を感じさせる。

そして中盤から…
時岡秀雄氏のサックスが切り込んで来た瞬間
思わず鳥肌が立った!!

この曲が元々持っている力の上に、
更にアナーキーな混沌がぶちまかれ、
曲の終盤に向けての
カオティックな高揚が続く!!

南米チリにおける、
フォルクローレをベースにした民衆の歌
“ヌエバ・カンシオン(新しい歌)” 運動の、
中心人物だったビクトル・ハラ(Victor Jara)

“ヌエバ・カンシオン” の同志
キラパジュン(Quilapayun)
セルヒオ・オルテガ(Sergio Ortega)
によって作詞作曲されたこの曲は、
1973年6月に録音され、
サルバドール・アジェンデ大統領
人民連合戦線政府時代には、
“チリの第二の国歌” とも言われた。

しかし、1973年9月
アウグスト・ピノチェト率いる
軍部のクーデターによって、
アジェンデ人民連合戦線政府は倒壊

ビクトル・ハラは、
アジェンデ支持派の見せしめとして、
ギターを弾く指を砕かれ、腕を折られ、
歌う口を切り裂かれ、惨殺された

このクーデター後、
ラテン・アメリカ諸国のみならず、
世界各国で、独裁政権の圧政と、
ピノチェトを支持した
アメリカ帝国主義への抵抗歌として
この曲
「不屈の民 (El Puebro Unido Jamas Sera Vencido)」は、
歌い継がれている。

特に、イタリアでの亡命生活を送っていた、
チリのフォルクローレグループ
インティ・イリマニ(Inti-Illimani)の演奏で、
世界的に知られる様になった。

フリージャズのベーシスト
チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)も、
83年の作品
『Charlie Haden / Carla Bley – The Ballad Of The Fallen』
で、「The People United Will Never Be Defeated」
として取り上げている。

やはりチリのロックバンド
ペティネリス(Pettinellis)による、
ロック・ヴァージョンも。

ヘンリー・カウアートべアース人脈のユニット、
Duck and Coverの演奏でも、
この曲のフレーズが使われていた。

91年の
『RēR Quarterly Vol.1 – Selections』
に収録されている。

日本では、A-Musik以外にも、
大熊亘氏の
シカラ・ムータジンタラ・ムータ
ソウル・フラワー・ユニオン
等が、演奏している。

ほとんど予備知識なしで、
ネット上で見つけた、
ムーズィカ・キオスク(MUZIKA KIOSK)
と言うバンドのカバーにも、
A-Musikや、ソウル・フラワーと、
同質のパワーを感じる。

さらに続く2曲目メドレー
「a.前進 (Vorwarz)
b.統一戦線の歌 (Die Einheitsfrontlied)
c.プリパ (P’urip’a)」

(この曲ではサックスは篠田昌已氏)

a.前進 フォールヴェルツ(Vorwarz)
ベルトルト・ブレヒトハンス・アイスラーのコンビによる
1932年の作品。
原題は「連帯性の歌(Solidaritatslied)」

b.統一戦線の歌 (Die Einheitsfrontlied)
こちらも、ブレヒト・アイスラーのコンビにより、
1934年に書かれたマーチ。
歌詞の意味が分からない状態で聴くと、
まるでナチの行進曲の様にさえ聴こえてしまうが、
歌われる内容は、全く正反対の反ファシズム・ソング

これも、チャーリー・ヘイデンのヴァージョンが有名。

c.プリパ (P’urip’a)
原曲は、アイルランドの反戦歌
「Johnny, I Hardly Knew You」

全斗煥の独裁体制下
韓国の民主化運動の中で、
“われらはプリパ(ラディカルズ)”
と歌詞を変えて歌われる様になった曲。

ここまでの一連の曲の、
A-Musikのヴァージョンは、

元々、民衆の抵抗歌が持つパワーに、
フリージャス、現代音楽、
パンクを経由した要素を上書きした

とんでもないパワー・チューンに仕上がっている!

当時、あまりの興奮から、
学生時代の音楽関係の友人に、
片っ端から電話をして、
この2曲の衝撃を伝えた事を思い出す。

(もちろん当時はメールだの、ラインなどない時代。
自宅のダイヤル式の黒電話から)

ただ、このアルバムで唯一
わたしの様なノン・ポリには、
どうしても受け入れる事が出来ない
問題の曲が

B-1 「反日ラップ (Anti-Jap Rap)」

1974年三菱重工本社爆破事件の首謀者、
東アジア反日武装戦線「ワレらの旅立ち」
という詩を竹田氏自身が歌っている

これは、かつて頭脳警察が、
赤軍派「世界革命戦争宣言」を、
“反体制の記号” として扱ったのとは訳が違う。

竹田氏は、爆弾テロによる、
一般市民の死傷には否定的ではあるが、
日本帝国主義の駆動輪への
テロ攻撃
を目論んだ、
東アジア反日武装戦線のメンバーへの、
シンパシ―を明らかにしている。

しかし当時、既に時代は80年代半ば
もはや、叛帝国主義日本という図式は崩れ
イデオロギーによる連帯が、
既に幻であることが露呈してしまった時代

ここまで短絡的に、
“敵” を想定した“詩”は、
“音楽” そのものの力を、
かえって損なってしまう様にさえ感じる。

まして、コロナ禍の現在に至っては、
この国の中で、
いったい誰に対して拳を振り上げるのかさえ、
混沌としている

確かに現在でも、
香港での民主派の弾圧
ミャンマーでの軍部のクーデター等、
竹田氏の言う “戦場” が、
相変わらず存在し続けている。

そこに日本と言う国が、間接的ではあれ
全く加担していないとは
言い切れないかもしれないが…

特定した “敵” に対しての、
共同幻想を持つ事
より、
あくまでも、
個々人のそれぞれ立ち位置から、
個人の集合である民衆の応援歌として、
音楽・歌の力は発揮されるのではないかと思ってしまう。

その点では、
「右でも左でもない、下や!」と言い切り、
人と人との極限の繋がりを実地に体験している
ソウル・フラワー・ユニオン
スタンスの方にどうしても肩入れしてしまう。

念の為に言わせて頂くが

どうしても一般的には敬遠されがちな、
A-Music政治的な側面は、

このユニットが成し得た、
民衆に依る “ポヒュラー・ミュージック” を、
フリージャズ、ロック、パンク、現代音楽 
等々の異要素で武装し、
鳥肌が立つ程力強い作品へと昇化させた
と言う功績を、

なんら落しめるものではない!!

『E Ku Iroju(エクイロジェ)』
というアルバムが、
この半世紀の間に生み出された、
無数の音楽作品の中でも、
特筆すべき衝撃を伴う作品である事は、
間違いない!!!

また、
フォーマット化され、商品化された
“U-Musik” であふれるこの国の中で、
選び取るべき
“A(Alternative)-Musik” の可能性を、
普遍的に示す作品でもある事も!!

2000年代になって発表された第2作、
『生きているうちに見られなかった夢を』
については、
A-Musik-『生きているうちに見られなかった夢を』

その他の作品については、
A-Musik 音源・動画 データ を、
参照頂きたい。


A-Musik
『E Ku Iroju(エクイロジェ)』(1984)
(Zeitgenossische Musik Disk – DI-830
BaLcony Records
)

Red Chrysanthemum Side

A-1 「不屈の民 (El Puebro Unido Jamas Sera Vencido)」
   竹田賢一 : 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   工藤冬里 : Piano

A-2 a.「前進 (Vorwarz)」
   竹田賢一 : Flute
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   篠田昌已 : Alto Saxophone
   高橋鮎生 : Vocals

A-2 b.「統一戦線の歌 (Die Einheitsfrontlied)」
   竹田賢一 : Flute
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   篠田昌已 : Alto Saxophone
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   オニオン釜ケ崎 : Tenor Saxophone

A-2 c.「プリパ (P’urip’a)」
   竹田賢一 : 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   篠田昌已 : Alto Saxophone
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   オニオン釜ケ崎 : Tenor Saxophone
   千野秀一 : Moog Liberation Synthesizer

A-3 「自殺について (On Suicide)」
   竹田賢一 : 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Drums
   久下恵生 : Drums
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   工藤冬里 : Piano. Synthesizer
   高橋文子 : Vocals

A-4 「There’ll Never Be Another You」
   竹田賢一 : 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   工藤冬里 : Piano. Synthesizer
   三浦燎子 : Vocals

A-5 「I Dance」
   竹田賢一 : 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   工藤冬里 : Organ
   坂本龍一 : Piano

Black Chrysantemum Side

B-1 「反日ラップ (Anti-Jap Rap)」
   竹田賢一 : Vocals
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   篠田昌已 : Alto Saxophone
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   オニオン釜ケ崎 : Tenor Saxophone
   河野優彦 : Trombone
   千野秀一 : Moog Liberation Synthesizer
   Rorie、勝田由美、大熊亘、中村峰子、田正彦 : Back-up Voices

B-2 「El Vito」
   竹田賢一 : 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   時岡秀雄 : Alto Saxophone
   工藤冬里 : Organ
   Rorie : Vocals

B-3 「ぬかるみの兵士たち (Die Moorsoldaten)」
   竹田賢一 : Vocals. 大正琴
   小山哲人 : Bass
   石渡明廣 : Guitar
   久下恵生 : Drums
   工藤冬里 : Piano. Organ
   John Duncan : Whispering

B-4 「二ルリリヤ (Nilririya)」
   竹田賢一 : Harmonium
   篠田昌已 : Sopranino & Tenor Saxophone
   佐藤春樹 : Trombone
   山本譲 : Cello
   箕輪攻機 : Tabla
   カムラ : Vocals

Recorded and mixed at Our House Studio, Tokyo, Feb – July, 1983.
Artwork : 八木康夫

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