『M-Train』小さな喫茶店にて
たまたま野暮用での外出の途中。
無性に煙草を一服したくなり、
喫煙場所を探していると…
喫煙可能 と言う喫茶店を発見。
2階への細い階段の途中にも、
気の利いた額絵が掛けられ、
ドアの前にも、ポプリとドライフラワー。
ちょっと立ち寄りたくなる雰囲気。
ドアを開けると、ドアベルの音と共に、
実に懐かしい、コーヒーと煙草の匂いが混じった
昔の喫茶店の香りが!!
英国風の落ち着いた雰囲気のカウンターと、
ソファー席が少しの、小さな店。
喫煙ボックスが有るのかと尋ねると、
全席喫煙可能だと言う!!
お昼前で、お客も少なく、
窓際のソファー席を勧められた。
テーブルにあらかじめ置かれた灰皿。
ちょっと前までは当たり前だった光景。
出窓にはポプリとドライフラワー、
大きなピンクのシェードのランプと、
小さめのステンド・ランプ。
とりあえず、ブレンド・コーヒーを注文。
遠慮なく、煙草に火をつける。
コーヒーと煙草の匂い、
出窓からの春の日差し、
BGMには、Jazzが流れている。
何十年も前、
わたしが10代20代だった頃、
日常的に時を過ごしていた “喫茶店” と、
ほとんど変わらない空間。
懐かしくも、居心地の良い、
反面、
ささやかな感傷的な痛みを伴う、
この空間の中で、
記憶の中の時間の断片が、
一瞬立ち現れては消えていく…
実在した時間、実在しなかった時間。
僅かながらの手に入れる事が出来た時間。
手の中をすり抜けていった時間。
手に入れる事すらかなわなかった時間。
どれも、総天然色に着色された風景と共に、
儚げな佇まいで、うつろう。
パティ・スミス(Patti Smith)の作家としての第3作目
『M-Train』の日本語翻訳版が出版されている。
パティ自身は、『M-Train』とは、
『M(Maind)-Train』だと語っているが、
70歳になったパティの現在の時間を軸に、
『M(Memory)-Train』の “駅” に立ち寄るかのように、
“過去” と “今” をめぐる散文集になっている。
亡くなった夫、
フレッドと過ごした時間にも立ち寄るが、
二人の思い出のルアー “カーリー” が、
「王様が死んじゃったから、もう釣りはしない…」
と語りかける。
移転の為に無くなってしまった、
お気に入りの場所だった、
カフェ・イーノのいつもの席。
ロッカウェイ・ビーチに移転したカフェも、
ほどなく、ハリケーン “サンディ” に
飲み込まれてしまう…
しかしなぜか、そこには感傷的な部分を、
あまり感じさせない。
ニュージャージーの、
ワーキング・クラスの家庭に育った、
バトリシア・リー・スミス。
アーティストのグルーピーを夢見て
移住したニューヨークで、
詩人として、シンガーとしての活動を始め、
70年代には、Patti Smith Group の
パティ・スミスとしてのステータスを築く。
その後、妻として母としての時間を過ごし、
大切な人たちとの死別を乗り越え、
表現者として今も現役で活躍する。
そんなパティの “今” の時間の上に、
しっかりと自身のM(Maind)を据えた上での、
過去(Memory)への旅には、
感傷の入り込む余地が無いのかもしれない。
何度か訪れた日本では、
太宰治、芥川龍之介の墓を訪ね、
―作家なんてみんなろくでなし-
という彼らの自嘲に対して、
「私もいつかあなたたちの仲間に
入れてちょうだい。」
と、つぶやくパテイには、
これから先、遠くない時期に訪れる
“死” に対する覚悟も感じとれる。
「無について書くのは簡単なことじゃないよ」
サム・シェパードを思わせる
夢の中のカウボーイが、
折にふれてパテイに語りかける。
「無」=「人生」=「Mu」
という境地には、
この70歳になった強い女性でさえ
いまだ、たどり着けていない…
と言う事なのだろうか?
ところで、わたし自身と言えば…
あやふやで不安定な今のMaind。
「無」の境地になど到底たどり着けていない。
『M(Memory)-Train』を、
旨く乗りこなせる様になるのは、
まだまだ先のことの様だ…
せいぜい今は、
この心地よい空間の中で、
感傷的な痛みを伴う、時間の断片がもたらす
M(Memory)のなかで漂っていようと思う。
パテイ・スミスについては、
別項
パティ・スミス 「People Have The Power」
パティー・スミス来日 補足?
も参照していただければ幸いです。
BGMには、コンチネンタル・タンゴの名曲
「小さな喫茶店(In einer kleinen Konditorei)」
あがた森魚
1987年の作品
『バンドネオンの豹』
当時のCD盤のみの
ボーナス・トラック・ヴァージョン。
現在の再発CDにも、
ボーナス・トラックとして収録されている。
あがた森魚
『バンドネオンの豹 + 2』
(2007 CD COCP-34523)
地上篇 (Lado Pierra)
01 男爵のおかえり
02 バンドネオンの豹(ジャガー)
03 パリで死んだ虎
04 SP「月光の盤吐熱音」
05 ブエノス・アイレスの冬休み
06 博愛(目賀田博士の異常な愛情)
07 夢のルナロード
08 タンゴ超特急
09 誰が悲しみのバンドネオン
海底篇 (Lado Fondo Marino)
10 夜のレクエルド
11 組曲「海底十字軍」
12 シフィリスの真珠採り
13 パール・デコレーションの庭
14 月光のバンドネオン
Bonus Tracks
15 小さな喫茶店
16 星の界
あがた森魚
『バンドネオンの豹』
(1987 LP)
地上篇 (Lado Pierra)
A-1 男爵のおかえり
A-2 バンドネオンの豹(ジャガー)
A-3 パリで死んだ虎
A-4 SP「月光の盤吐熱音」
A-5 ブエノス・アイレスの冬休み
A-6 博愛(目賀田博士の異常な愛情)
A-7 夢のルナロード
A-8 タンゴ超特急
A-9 誰が悲しみのバンドネオン
海底篇 (Lado Fondo Marino)
B-1 夜のレクエルド
B-2 組曲「海底十字軍」
a 少年十字軍(星の界)
b SP「盤吐熱音の豹」
c 海底の豹
B-3 シフィリスの真珠採り
真珠採りのタンゴ
~シフィリスのもののあはれ
B-4 パール・デコレーションの庭
B-5 月光のバンドネオン
池田光夫 : Bandoneon(A-1. A-2. A-9. B-1. B-2a. B-3)
浦山秀彦 : Guitar(A-2. B-1. B-2a. B-3)
熊谷陽子 : Piano. Keyboards(A-2, B-1. B-2a. B-3)
斎藤ネコ : Violin( A-2. A-3. B-1. B-2a. B-3)
帆足哲昭 : Percussion(A-2. B-1. B-2a. B-3)
是安則克 : Bass(A-2. B-1. B-2a)
渡辺等 : Bass(A-9. B-3)
浜田康史 : Drums(B-2a)
古村利彦 : Saxophone(B-3)
高浪慶太郎 : Keyboards. Programming(A-3. A-5. A-6. A-7. A-8. B-2c)
長谷川智樹 : Keyboards. Programming(A-3. A-5. A-6. A-7. A-8. B-2c)
西田正也 : Programming(A-3. A-5. A-6. A-7. A-8. B-2c)
矢野顕子 : Vocals. Piano. Backing Vocals. Keyboards(B-4)
大村憲司 : Guitar(B-4)
かしぶち哲郎 : Drums(B-4)
旭孝 : Flute(B-4)
清水一登 : Marimba(B-4)
篠原正嗣 : Strings(B-4)
上野耕路 : Piano(A-9)
金子飛鳥 : Violin(A-9)
桑野聖 : Violin(A-9)
久保田朋宏 : Viola(A-9)
寺井康裕 : Cello(A-9)
藤井丈司 : Programming(A-4)
土岐幸男 : Programming(A-2. B-5)
海底(特急)聖歌隊(A-8. B-2c)
伊藤与太郎
光永厳
深津真也
ルナ石川 : Narration(A-4)
高場将美 : Narration(B-2b)
シエテデオロ(A-4. B-2b)
浦島楯 : Bandoneon
斉藤充正 : Bandoneon
並木恵 : Bandoneon
斉藤一臣 : Violin
藤沢由利 : Violin
翠川敬基 : Cello
斎藤徹 : Bass
玉井國太郎 : Piano
越美晴 : Backing Vocals(A-1)
中原信雄 : Bass(A-6)
小杉武久 : Violin(A-6)
関端ひかる : Backing Vocals(A-5. B-3. B-5)
白井良明 : Guitar(A-2)
鈴木慶一 : Synthesizer. Guitar(B-5)