POST PUNK 『No New York』
77年前後に浮上した
“NEW YORK PUNK”
と総称されたバンド群の多くは、
前世代からの継続した流れの中に、
位置付けられていたとも言える。
楽曲には、
ブルース、リズム&ブルース
ロックン・ロール、
と言ったジャンルから地続きの部分が、
少なからず見受けられ、
演奏の面でも、
メンバーそれぞれが、
有る程度のバンド経験と、
テクニックを持っていた。
しかし、78年、
第3世代とも言える、
突然変異的なバンド達が登場する。
従来のROCKに “NO” という
意志表示をした “PUNK” に対してさえ、
更なる “NO” をつきつける、
ポストパンク(Post PUNK)の動き
“NO WAVE”
アマチュアリズムを、
躊躇無く剥き出しにした、
楽器の演奏が未経験の、
“非ミュージシャン” 達に依る、
“非ROCK” ひいては “非音楽”
とも言える表現。
その動きを象徴したのが、
V.A.『No New York』(1978)
(Antilles/Island Records)
トーキング・ヘッズ (Talking Heads)の
アルバムのマスタリングの為に、
ニューヨークに来ていた、
ブライアン・イーノ(Brian Eno)は、
ソーホーのギャラリー、
“アーティスツ・スペース”
で行われたイベントで、
そのパフォーマンスを目撃した
新世代のバンド達の中から、
ザ・コントーションズ
(The Contortions)
ティーンエイジ・ジーザス
・アンド・ザ・ジャークス
(Teenage Jesus And The Jerks)
マーズ(Mars)
DNA
という4バンドの、
ほぼ、スタジオ・ライブの様な状態での、
オムニバス・アルバムの製作を
プロデュースした。
オムニバスに参加させるバンドには、
他にも、ジャン・ミッシェル・バスキア
(Jean-Michel Basquiat)
が参加していた
“GRAY” 等も候補に挙がっていたが、
最終的には、
ジェームス・チャンスと、
ティーンエイジ・ジーザスの、
当時のやり手女性マネージャー、
アニア・フィリップのプッシュで、
この4バンドに絞られた。
イーノは、プロデューサーとしては、
ほとんど演奏に口出しすること無く、
それぞれのバンドに、
自由に演奏させたらしい。
各バンド、4曲ずつを収録した
このアルバムは、
当初、アイランド・レコード
からのリリース予定だったが、
実験的な内容の為、アイランド傘下の、
アンティルス(Antilles)レーベル
からのリリースとなった。
しかし、80年代初頭に、
アンティルスが倒産し、
マスター・テープも紛失。
90年代末まで、
入手が難しいアイテムとなっていた。
わたしも、幸い発売当時(78年頃)に、
輸入盤LPで、この作品を体験できたが、
その後、もちろん日本盤LPはリリースされず、
輸入盤も、店頭で見かける事はなくなっていた。
CDの時代になってからも、
なかなか再発されず、
90年代の後半になってようやく、
先行して日本でCDが再発された。
2005年には、ロシアの再発レーベル
Lilith Records から、
CDとLPが再発されている。
ジェームス・チャンス
(James Chance)率いる、
コントーションズ
フリーキーでファンクな痙攣ビートに、
ヒリつく様なサックスとボーカル、
キャプテン・ビーフハートの、
マジックバンドを思わせる様な、
フレーズの概念の無いギター、
さらに、神経を逆撫でするオルガンが絡みつく。
フリージャズと、ファンク、ノイズ、
ガレージ・パンクが渾然一体となり、
演奏技術と言う尺度から外れたカオスが、
叩きつけられる。
この、時代の挟間に産み落とされた、
異形の音群を記録したドキュメントには、
実に似つかわしい、
カオティックなオープニングといえる。
元々、ジェームス・チャンスは、
リディア・ランチ(Lydia Lunch)と、
ギターにジョディ・ハリス(Jody Harris)、
ベースにレック(ЯECK)というメンバーで、
ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークス
として活動していたが、
ギターが上手過ぎる(?)と言う理由で、
ティーンエイジ・ジーザスを抜けさせられた
ジョディ・ハリスや、
レックに呼ばれてニューヨークに来たばかりの
チコ・ヒゲ(中沢知公)らと、新たに
コントーションズを結成していた。
この録音時には、すでに
チコ・ヒゲは脱退している。
ティーンエイジ・ジーザス
・アンド・ザ・ジャークス
ジョディ・ハリスの抜けた後、
リディア・ランチ自身がギターを弾くようになり、
(最初は、元々ギタリストだったレックが、
日本から持参していたギターを弾いていたらしい)
シャウトするポエトリー・リーディング
とでも言える様な、ボーカルと同時に、
ドローンを生み出すコード・プレーと、
痙る様なカッティングを組み合わせた、
ノイズ・ギターを披露している。
この録音時には、
ジェームス・チャンスとレックは脱退している。
ジェームス・チャンス以外の
歴代のメンバーの中で、
ミュージシャンとしてバンド経験が有ったのは
レック一人だけだった様で、
成り立ち自体が、非音楽的。
マーズ同様、
ヴェルベット・アンダーグラウンド経由の、
ラモンテ・ヤング的、
ドローンを多用した音像が聞き取れる。
マーズ
最も “非音楽的” なマーズは、
この録音時点で、
他3組の先駆者的なバンドだった。
リディア・ランチも、
マーズのギグを体験したことで、
自らもバンドを始めたと言う。
元々ヴェルベッツ的な演奏を行っていた、
ボーカル・ギターの、
チャイナ・バーグ(China Burg)
ドラムの、
ナンシー・アーレン(Nancy Arlen)
と言う、2人の女性を含む4人編成。
断片的で幼児退化的なヴォイスと、
キーにもスケールにも捕らわれない、
アヴァン・ノイズを撒き散らしている。
DNA
ほとんど演奏経験も無い、
アート・リンゼイ(Arto Lindsay)と、
ロビン・クラッチフィールド
(Robin Crutchfield) が、
それぞれ、ギターとオルガンを担当し、
ベースに、
ゴードン・スティーヴンソン
(Gordon Stevenson)
ドラムに、
ミリエール・サーヴェンカ
(Mirielle Cervenka)
を、加えてスタートしたDNA。
ほどなく
ベースとドラムの2人は脱退。
ゴードン・スティーヴンソンは、
ティーンエイジ・ジーザスに参加する。
演奏経験の全く無い、
モリ・イクエ(Ikue Mori)をドラムに迎え、
ベース・レスのトリオで活動を続けていた。
この音源では聴き取る事は難しいが、
この時点で、アート・リンゼイは、
モリ・イクエに、サンバ等の
ブラジル音楽のビートを要求していたと言う。
この作品の発表後、
参加したメンバー達、
ジェームス・チャンス、
リディア・ランチ、
アート・リンゼイ、
が、それぞれの方向で、
ステイタスを築ていく事になり、
当初、彼らの作品をリリースしていた、
先鋭的なレーベル “ZE Records” も、
小奇麗でスノップな、
アヴァン・ディスコ路線へと変貌してしまう。
結果的に、
『No New York』という作品は、
ポスト・パンク、ポスト・ロック
と言うスタンスを過激に主張していた、
この僅かな一時期を記録し得た、
貴重なドキュメント作品となってしまった。
見方によっては、
非常に限られたコミュニティーの中での
記録の様にも思えるが、
その貴重な一時期の、
ニューヨークでの新しい波の中に、
巻き込まれた日本人がいた事は
偶然なのか、
時代の必然だったのか…
既に東京で活動していたバンド、
“3分の3(3/3)”のギタリスト、レックは、
77年3月から、モリ・イクエと共に、
ニューヨークへ渡っている。
2人でCBGBに入り浸っていた時に、
「サングラスとルックスがグレイトだ」
と、声をかけてきたのが、
ジェームス・チャンスと、
リディア・ランチ。
(当日のレックのサングラスは、
リチャード・ヘルが、かけていた物と、
同じタイプの物だったらしい)
その流れで、レックは、
ティーンエイジ・ジーザスに加入。
ギタリストとしてでは無く、
当初はドラマーとして参加し、
すぐにべーシストにスイッチする。
その後、“3分の3(3/3)” のドラマー、
チコ・ヒゲも、
レックからの誘いで、
ニューヨークへ渡り、
ジェームス・チャンスの、
コントーションズに加入する。
また、レックと同行していた、
モリ・イクエは、
ティーンエイジ・ジーザスの、
練習に立ち会った際に
アート・リンゼイと出会い、
ドラマーが脱退したDNAに加入。
全く経験の無かったドラムをたたくことになる。
モリ・イクエは、その後もニューヨークに残り、
前衛的な音楽活動を継続していくが、
レックと、ヒゲは、
(アルバム収録時には、不参加ながら…)
ニューヨークでの刺激的なムーブメントを体感し、
約1年のニューヨークでの活動を経て帰国する。
帰国後のレックと、
チコ・ヒゲの2人によって、
国境を超えた、はるか日本の地で、
この一瞬のニューヨークの熱量が、
新しい形で再燃し、
“東京ロッカーズ”
のムーブメントの中で、
最も異彩を放ったバンド、
“フリクション” へと、
受け継がれる事となる。
さらに、東京以上に、
前世代との隔絶した形で動き出した、
“関西ノー・ウェイヴ” への、
直接的な起爆剤の一つににもなっていた。
それまでバンドの経験が無く、
ましてや、
当時の音楽業界等との関わりなど無い、
主に、学生を中心とした若い世代が、
アマチュアである事にも、
“非ROCK” “非音楽” である事にも、
一切躊躇せずに、
自分たちのやり方で、
一気に音楽表現を始めていた。
79年の時点で、
自ら “関西ノー・ウェイヴ” と
名乗っていたことは、
関西人特有の、
東京(東京ロッカーズ)への
対抗意識以上に、
78年のニューヨークでの、
音楽だけでなく、すべての表現行為に
オルタナティブな可能性を示した、
この異形の “非音楽家達” のムーブメントに対する、
シンパシーを表していたと思われる。
ちなみに、LPレコードのデザイン面でも
影響を受けたと思われるアイテムが有る。
裏ジャケットに、
参加メンバーの写真をレイアウトしたデザインは、
オムニバス・アルバム
『東京ロッカーズ』に転用されている。
また、
シングル・ジャケットの内側に歌詞を印刷し、
ジャケットを切り開かないと見れない
と言うアイデアは、
87年に、
キャプテン・レーベルからリリースされた
町田町蔵のミニ・アルバム
「ほな、どないせぇゆうね」にも使われていた。
こちらは、歌詞では無く、英文での紹介だったが、
CD化された際には、ブックレットに印刷されていた。
さすがに、ジャケットを切り開くことはしなかったが…
Contortions『Buy』(1979)
A-1 Design To Kill
A-2 My Infatuation
A-3 I Don’t Want To Be Happy
A-4 Anesthetic
A-5 Contort Yourself
B-1 Throw Me Away
B-2 Roving Eye
B-3 Twice Removed
B-4 Bedroom Athlete
James Chance : Saxophone. Vocals. Keyboards
Jody Harris : Guitar
Pat Place : Slide Guitar
David Hofstra : Bass
Don Christensen : Drums
James White & The Blacks
『Off White』(1979)
A-1 Contort Yourself
A-2 Stained Sheets
A-3 (Tropical) Heat Wave
A-4 Almost Black
B-1 White Savages
B-2 Off Black
B-3 White Devil
B-4 Bleached Black
James White(Chance) : Saxophone. Organ(B-1)
Jody Harris : Guitar
Pat Place : Slide Guitar
George Scott : Bass
Don Christensen : Drums
Lydia Lunch : Vocals(A-2). Guitar(B-3)
Robert Quine : Guitar(A-3. B-2)
Adele Bertei : Piano. Percussion(A-1. A-3)
Kristian Hoffman : Piano(A-2. A-4)
Ray Mantilla : Congas(A-3)
Mars
『Mars Archives Volume One
: China To Mars』
(2015)
February and June 1977 As China
A-1 Cry
A-2 No Idea
A-3 Can You Feel It?
A-4 Big Bird
A-5 Red
A-6 Look At You
A-7 3E (Early Version)
September 1977 As Mars
B-1 Cats
B-2 Cry
B-3 3E
B-4 Plane Separation
B-5 Compulsion
China Burg : Guitar. Vocals
Sumner Crane : Guitar. Vocals
Mark Cunningham : Bass. Vocals
Nancy Arlen : Drums
Teenage Jesus And The Jerks
『Beirut Slump – Shut Up And Bleed』
(2008)
01 Red Alert
02 Orphans
03 Burning Rubber
04 The Closet
05 Less Of Me
06 Freud In Flop
07 I Woke Up Dreaming
08 See Pretty
09 Baby Doll
10 Race Mixing
11 Crown Of Thorns
12 Staircase (Beirut Slump)
13 Less Of Me
14 Tornado Warnings (Beirut Slump)
15 My Eyes
16 Beirut Slump? Case #14
17 Red Alert
18 I Am The Lord Jesus (Beirut Slump)
19 Sidewalk (Beirut Slump)
20 Burning Rubber
21 Try Me (Beirut Slump)
22 The Closet
23 Eliminate By Night (Live)
24 I Woke Up Dreaming
25 Roll Your Thunder (Live)
26 No Morality
27 G-I Blue (Beirut Slump)
28 Popularity Is So Boring
29 Red Alert (Live)
“No New York” compilation
(01.03.24.)
“Orphans/Less Of Me” 7″ single
(02.13.)
Live at the Artist’s Space 1978.05.06
(23.25.29.)
Lydia Lunch : Guitar. Vocals
Gordon Stevenson : Bass
Bradley Field : Drums
“Pre-” 12″ EP (04.05.15.)
Lydia Lunch : Guitar. Vocals
Reck : Bass
Bradley Field : Drums. Cymbal
James Chance : Saxophone
“Live At Max’s Kansas City”
(26.28.)
Lydia Lunch : Guitar. Vocals
Reck : Bass
Bradley Field : Drums. Cymbal
“Baby Doll/Freud In Flop/Race Mixing” 7″
(06.09.10.)
“Hysterie” compilation
(07.11.17.20.22.)
Lydia Lunch : Guitar. Vocals
Jim Sclavunos : Bass
Bradley Field : Drums. Cymbal
“Try Me/Staircase” 7″
(12.21.)
Lydia Lunch : Guitar. Vocals
Liz Swope : Bass
Jim Sclavunos : Drums
Vivienne Dick : Organ
Bobby ‘Berkowitz’ Swope : Vocals. Violin
Beirut Slump (08.14.16.18.19.27.)
Lydia Lunch : Guitar. Vocals
Liz Swope : Bass
Jim Sclavunos : Drums
Vivienne Dick : Organ
Bobby ‘Berkowitz’ Swope : Vocals. Violin
DNA『DNA On DNA』(2004)
01 You & You
02 Little Ants
03 Egomaniac’s Kiss
04 Lionel
05 Not Moving
06 Size
07 New Fast
08 5:30
09 Blonde Red Head
10 32123
11 New New
12 Lying On The Sofa Of Life
13 Grapefruit
14 Taking Kid To School
15 Young Teenagers Talk Sex
16 Delivering The Good
17 Police Chase
18 Cop Buys A Donut
19 Detached (Early Version)
20 Low
21 Nearing
22 5:30 (Early Version)
23 Surrender
24 Newest Fastest
25 Detached
26 Brand New
27 Horse
28 Forgery
29 Action
30 Marshall
31 A New Low
32 Calling To Phone
Arto Lindsay : Guitar. Vocals
Robin Crutchfield : Keyboards (01.-06. 19.-23.)
Vocals (05.21.23.25.)
Tim Wright : Bass (07.-18. 24.-32.)
Guitar (09.13.)
Ikue Mori : Drums
“You & You”7″
Producer : Robert Quine
(01.02.)
“No New York” compilation
(03.-06.)
“A Taste Of DNA”
(07.-12.)
Unknown studio in Canada(13)
the Squat Theatre’s Obie winning Mr. Dead & Ms. Free
(14.-18.)
1978.07.23 Live at CBGB’s
(19.-23.)
1980.03.05 Live at Columbia University
(24.26.30.)
from the Fiorrucci Tape, date unknown
(25.27.28.29.)
1982.06.24 or 25 Live at CBGB’s
during the final shows
(31.32.)
V.A.『No New York』(1978)
(Antilles/Island Records)
The Contortions
A-1 Dish It Out
A-2 Flip Your Face
A-3 Jaded
A-4 I Can’t Stand Myself
James Chance : Saxophone. Vocals
Don Christensen : Drums
Jody Harris : Guitar
Pat Place : Slide Guitar
George Scott III : Bass
Adele Bertei : Organ
Teenage Jesus And The Jerks
A-5 Burning Rubber
A-6 The Closet
A-7 Red Alert
A-8 I Woke Up Dreaming
Lydia Lunch : Vocals. Guitar
Gordon Stevenson : Bass
Bradley Field : Drums
Mars
B-1 Helen Fordsdale
B-2 Hairwaves
B-3 Tunnel
B-4 MPuerto Rican Ghost
Sumner Crane : Vocals. Guitar
China Burg : Vocals. Guitar
Mark Cunningham : Bass. Vocals
Nancy Arlen : Drums
DNA
B-5 Egomaniac’s Kiss
B-6 Lionel
B-7 Not Moving
B-8 Size
Arto Lindsay : Vocals. Guitar
Robin Crutchfield : Organ. Vocals
Ikue Mori : Drums
Producer : Brian Eno
Recorded at Big Apple Studio in N.Y.C. Spring 1978