Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリクス)『Live In Maui』音源編

1970年7月30日

Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリクス)
突然の死亡の2か月半前。

新生Experience(エクスペリエンス)
Guitar : Jimi Hendrix(ジミ・ヘンドリクス)
Bass : Billy Cox(ビリー・コックス)
Drums : Mitch Mitchell(ミッチ・ミッチェル)

による最後のツアー、
“The Cry Of Love Tour
(ザ・クライ・オブ・ラブ・ツアー)”
の1stレグ、北米ツアーの最終日。

ハワイ、マウイ島。
ハレアカラ・クレーター麓
粗末な特設ステージで、
僅か数百人の聴衆を前に行われた
フリー・コンサート
(アーリーショーレイトショー)の、
ほぼ完全なライブ音源と、
変則的な形ではあるけれどライブ映像が、
ようやくオフィシャルでリリースされた。

当日のライブは、悪名高い当時のマネージャー
Michael Jeffery(マイケル・ジェフリー)
によって企画され、

撮影・記録された映像と音源は、
アンディウォーホルの取り巻きだった
Chuck Wein(チャック・ワイン)が監督を務め、

1972年
『Rainbow Bridge(レインボウ・ブリッジ)』
というカルトムービーに使用された。

レインボウ・ブリッジと言うのは、
ヒッピー集団の、
瞑想に使われていた施設の呼び名でもあり、
(Rainbow Bridge Occult Research Meditation Center)
監督のチャック・ワインによると、
“覚醒した世界と、日常の世界との架け橋”
を表しているそうだ。

脚本は無く、出演者も素人ばかりで、
モデル出身の
Pat Hartley(パット・ハートレイ)が、
マウイ島のコミューンの
瞑想センターまで旅をするという、
一応ストーリーらしきものは有った様だが、
結果として、
当時のヒッピー文化の映像を並べただけの、
脈絡のないイメージ・フィルム
になってしまっていた様だ。

わたしも以前に、
何度もダビングを繰り返した様な、
ブートレッグ・ビデオ(VHS)で、
観ていると思うのだけれど、
大半が、ヒッピー達の瞑想や、
サーフィンのシーンで、
ジミのライブ映像は、後半に断片的にしか
使用されておらず、
映像の悪さも手伝ってか、
ほとんど記憶に残っていない。

しかし、マイケル・ジェフリーは、
ワーナー・ブラザーズから、
ジミとエクスペリエンスによる
スタジオ録音の新作を、
映画のサウンド・トラックとして製作する事と、
そのアルバムの販売権を条件に、
この映画製作への資金出資を受けていた。

映画を成功させなければならない
マイケルワインにとっては、
ジミ・ヘンドリクスと言う客寄せ看板と、
このいい加減なカルト・ムービー
結び付ける為に、
映像作品の中で、ジミのパフォーマンスが、
どうしても必要になったらしい。

そこでワインは、
“Vibratory Color Sound Experiment”
振動する色彩・音の実験
と言うイベントの名目で、
ジミのフリーコンサートを企画する

その為、当初から予定されていた、
70年8月1日、ホノルルのコンサートの前日
7月30日に、なかば強引にねじ込まれたのが、
このマウイでのライブと言う事になる。

そんな事情の中、
にわか作りの粗末なステージと、
僅か数百人の観客
(エキストラも集められたと言う話も有る)の前、
火山の裾野と言う立地の為の
強風の中で行われた、このフリー・コンサート。

そんな悪条件にもかかわらず、
新生エクスペリエンスの
パフォーマンス自体は、

ジミが大好きだったという
ハワイの自然の中で、
バンドとしての一体感を感じさせる、
パワフルで内容の濃いもの
になっている。

7月30日のライブ当日
撮影用に
16ミリのカメラを4台用意したものの、
用意されたフィルムは、
それぞれ10分程度だけだったそうで、
フル・ステージを記録できる長さでは無い。
映画で断片的に使用されたライブ映像は、
合計で僅か20分程度

当日録音された音源についても、
今回のライブ映像で確認できる様に、
強風対策として、ウレタンの様な緩衝材を、
マイクに巻きつけた状態で録音されていた為、
こもり気味で、満足な物では無かった様だ。

特にドラムのトラックは、
当初から使い物にならない部分が多く、
映画用に使用するテイクについては、
71年に、ミッチ・ミッチェルが、
スタジオで新たに録り直したものに、
差し替える必要が有った様だ。

当時からのエンジニア、
Edwin Kramer(エディ・クレイマー)によると、
ミッチによるオーバー・ダブは、
ほぼ完璧に当日のプレイを再現していると言う。

今回のオフィシャル・リリースは、
そのエディ・クレーマーが、
テープの復元とリミックスを行い、
バーニー・グランドマンによって
リマスタリングされており、
ボーカル、ギター、ベースの
バランスが整えられ
オーバー・ダブされたドラムは、
さらにクリアで立体感を持った音になっている。
(ただ、映画未使用で、71年にドラムが
オーバー・ダブされていない曲については、
音が右チャンネル寄りで、立体感に欠ける)

ブートレッグ(海賊盤)音源との比較

この音源は、ブートレッグ(海賊盤)で、
これまで何度もリリースされていた。


アナログ・ブート時代にも、
2回のショーから9曲をピックアップした
『The Crater Of The Sun, Maui Hawaii』と、
そのコピーと思われる
『Last American Concert』
といったアイテムがリリースされていた。

Early show A-2.3.4 B-1.4
Late show A-5 B-2.3

A-2 「Hey Baby (New Rising Sun) / In From The Storm」
曲の初めに一瞬だけ、
ジャム風の演奏部分のイントロが聴けるが、
いきなりカットされて、
曲調が変わった後の部分から始まり、
今回のオフィシャル音源のものより、
歌が始まるまでの演奏がかなり短い

A-3 「Hear My Train A Comin’」
演奏の前に、
ジミの曲紹介のスピーチが収録されている。

A-5 「Maui Sunset」
Late show「Hey Baby (New Rising Sun)」
前半部分
(途中でフェイド・アウト)

全体にコモリ気味の音質で、
曲間のフェイド・アウトも多い
当時は、こんな物でも
当日の音源が聴けるだけでも貴重だった。


1990年代、
CDブートの時代になり、
TSP(The Swingin’ Pig)
レーベルが、
『Last American Concert Vol. I』
『Last American Concert Vol. II』

という2枚をリリース。

90年代、新宿のブート屋街で
よく見かけたアイテム。

当時のTSPのリリースなので、
アナログ音源よりはジェネレーションが若く
収録時間も長い、
映画用のラフミックスをソースとして、
イコライジングした物だと思われる。
90年のリリースなので、
当時としては有り難い音源だったが、
やはり、その後のアイテムと比べると
音は多少こもり気味

このアイテムで初出の音源は、
Disc1 
1「Lover Man」 
4「Message To Love」
8「Fire
Disc2
1「Dolly Dagger」 
2「Instrumental Solo (=Villanova Junction)」
5「Freedom
6「Jam Back At The House (/ Straight Ahead)
7「The Land Of The New Rising Sun(/ Midnight Lightning)

Disc1-1「Lover Man」
曲の前の
チューニングなどの約1分の部分はカット
突然演奏が始まる

Disc1-2「Hey Baby」
曲の最初、アナログではカットされていた
20秒ほどのジャム風の演奏が追加され、
その後に、
今回のオフィシャル音源の演奏に繋がっている。
(この20秒ほどの部分は、
オフィシャル音源には未収録)

Disc1-6「Hear My Train A Comin’」
アナログでは収録されていた、
演奏前の曲紹介のスピーチがカットされている。

Vol. 2-2「Instrumental Solo」
は、「Villanova Junction」

Disc2-6「Jam Back At The House」
曲の前半を4分30秒程カットしており、
曲が始まって3分50秒頃から、
収録表記が無い「Straight Ahead」が、
続けて収録されている。

Disc2-7「Land Of The New Rising Sun」
今回のオフィシャル音源の
「Hey Baby (The Land Of The New Rising Sun) / Midnight Lightning」と同じく、
後半のMidnight Lightning(Race With The Devilと呼ばれた部分も)含む。

まだ未収録の曲も有るが、セットリストは、
ほぼ整っている。


2002年には、
Michael Jeffery(マイケル・ジェフリー)が、
使用権を主張して、
シミのライブ音源のリリースを行っていた
イギリスのハーフ・オフィシャル・レーベル
Purple Haze Records が、2枚組CD

『The Rainbow Bridge Concert』
をリリース。

かなり強めのイコライジングが施されている為、
ヘッドフォンで聴くには辛い。

収録内容は、前記のTSPと同じなので、
たぶん元になったソースは同じだと思われる


さらにその後、2008年
『The Complete Rainbow Bridge』には、
これまでの音源に未収録だった
「Spanish Castle Magic」
「Stone Free」
を収録。

これは一時、日本の業者MSIが、
輸入盤に、日本語の解説とオビを付けて販売していたものだが、
最近は見かけない…

未入手のため音質、詳細は不明。

Disc1-12「Purple Haze / Star Spangled Banner」
Disc2-9 「Stone Free / Hey Joe / Stone Free」

表記はメドレーの様になっているが、
「Star Spangled Banner」「Hey Joe」は、
それぞれの曲中に、
ごく短く組み込まれているだけで、
他のアイテムの音源と同じだと思われる

これで、
当日のセットリストの音源は一応出揃った。
(Disc2の8と9の間のドラムソロが
収録されているかどうかは不明)


2010年代になって、
音源コレクターBOB TERRYによって、
映画用に収録された
マルチトラック・テープのコピー音源
(一部欠損部分は、同日のオーディエンス録音の音源で補足?)
「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」が、
ネット上にアップされた。

ミッチのドラムは、
オーバー・ダブされた曲と、未処理の曲のでは、
音のクリアさに差が出た状態のラフ・ミックス。

『Rainbow Bridge Colour-Sound Experiment』は、
BOB TERRY TAPESを、
そのままプレスCDにした物で、
ピッチは少し高め音圧も低めらしい。


『Maui 1970』

その後、「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」
ピッチを修正し、音圧を上げて
日本のブートレッガーがリリースした物。


「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」
を元にした音源は、
上記のブートCDの2点共、
未入手・未聴ながら、

同内容だと思われる音源を、ネット上から入手。

以下の検証はは、その音源を元にした物。

Disc1-1「The Gemini Twins」
前座のフォーク・デュオの曲を収録。
これは、元々「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」
に含まれていたかどうかは不明…
(わたしの入手した音源には未収録)

Disc1-2「Introduction by Chuck Wein」
スピーチが終わってから、
バンドが登場まで長めに収録。
その後のジミのスピーチは、
今回のオフィシャル盤では、
Disc1の11曲目に追加収録された
「Spanish Castle Magic」
の演奏が始まる前に、
チューニング等をカットした形にエディットされて収録されている。

Disc1-4「Lover Man」
曲に入る前のチューニングの部分が、
1分ほど追加されている。
一部欠損部分が有ると言われているが、
ギターソロの後、2分30秒あたりにギャップが有る。

Disc1-5「Hey Baby (New Rising Sun)」
今回のオフィシャル音源には未収録の、
20秒ほどのジャム風の演奏を含むバージョン

Disc1-7「Hear My Train A-Comin’」
これまでの音源には無かった、
演奏前のジミによる曲紹介のスピーチが追加されている。

Disc2-1「Introduction」
Disc2-11「Drum Solo」

今回のオフィシャル盤には未収録。

Disc2-6「Jam Back At The House」
続く「Straight Ahead」と独立した形で曲目表示されている。
前半約4分30秒を追加した完全版
(今回のオフィシャル盤と同様)

Disc2-10「Midnight Lightning / Race With The Devil」
今回のオフィシャル盤の
「Hey Baby (New Rising Sun) / Midnight Lightning」の後半部分と同じ。
「Hey Baby (New Rising Sun)」と分けて曲目表示されている。
オフィシャルで「Midnight Lightning」とされている部分の演奏に、
The Gunの69年の曲「Race With The Devil」のフレーズが、
繰り返し挿入されている為、ここでは
「Race With The Devil」とのメドレーと言う表記になっている。
(しかし、印象的なフレーズのみの使用で、
曲としての引用にはなっていない。)

The Gun「Race With The Devil」

その他にも、今回のオフィシャル盤ではカットされた曲間の部分や、
曲の前のチューニング・ハウリング等、細かい違いが有る


そして、今回の、オフィシャル・リリース
『Live In Maui』

CD

Disc1(Early Show)
1. Chuck Wein Introduction
2. Hey Baby (New Rising Sun) *
3. In From the Storm *
4. Foxey Lady *
5. Hear My Train A-Comin’ *
6. Voodoo Child (Slight Return) *
7. Fire *
8. Purple Haze *

9. Spanish Castle Magic
10. Lover Man
11. Message to Love

Disc2(Late Show)
1. Dolly Dagger
2. Villanova Junction
3. Ezy Rider *
4. Red House
5. Freedom
6. Jam Back At The House
7. Straight Ahead

8. Hey Baby (New Rising Sun) / Midnight Lightning
*
9. Stone Free

太字* は、71年にドラムスをオーバー・ダブしたテイク
赤の太字は、映像未収録

Disc1-2「Hey Baby (New Rising Sun)」
今回の編集映像では
ジミ達3人がステージに向かうシーンに、
ジャム風の演奏の後からの音が被せられ、
いかにもこの曲が、オープニング曲だったように仕上げられており、
CDでの音源も、曲の最初の20秒ほどのジャム風の演奏部分がカットされている。

これまでのブート音源では、
この部分は別のソース
(ステレオで録られたオーディエンス録音素材)
を繋げていると言われているが…

TSPの『Last American Concert Vol. I』
Purple Haze Recordsの『The Rainbow Bridge Concert』や、
「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」にも収録されている、
曲の最初の20秒ほどのジャム風の演奏部分は、
ドラムの音圧は多少低い様にも思えるが、
オーディエンス録音の別ソースを
つなげている様には思えない

1970年当時、それも、
このロケーションのフリーコンサートに、
客席からステレオで隠し録りする
ブートレッガーが居たとは考え難く、
仮にそのような録音が残っていたとしたら、
ブートレッガー達がほっておくはずはない。
しかし今のところ、このフリーコンサートの、
オーディエンス録音のブートはリリースされていない

あくまで推測になるけれど…
映画で使用されなかった
最初の20秒ほどの部分には、
ドラムをオーバー・ダブしておらず
今回のリリースは、映像優先で、
多少違和感が出てしまうこの部分を、
カットしたのかもしれない

(あるいは、この部分のマスター・テープに、
致命的なダメージが有ったのか…?)

Disc1-3In From the Storm
Disc1-2「Hey Baby (New Rising Sun)」からのメドレーだが、
CDの音源では、曲の切り替わる部分にかすかにギャップが有る様に思える。
(映像ではスムーズに繋がっているのに…)

Disc1-5「Hear My Train A-Comin’」
「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」同様、
演奏前にジミによる曲紹介のスピーチが追加されている。

Disc1-10「Lover Man」
「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」
には収録されていた、
演奏前のチューニングはカット

Disc2-6「Jam Back At The House」
「Beginnings」と言う表記もあった
「MAUI WOWEE – BOB TERRY TAPES」
に収録されたものと同じく全長版

Disc2-8「Hey Baby (New Rising Sun) / Midnight Lightning)」
Disc1の2でカットされた、ジャム風の演奏が
2分20秒くらいまで続いた後
Disc1の2の初め(曲調が切り替わった部分)
ボーカルが入る前のイントロ部分だけが
30秒ほど演奏され
急に「Midnight Lightning」のリフが数10秒間続く

さらに、3分25秒頃からは、
The Gun「Race With The Devil」のフレーズが繰り返される。
(その為、ブートでは、この部分を「Race With The Devil」と表記している)
オフィシャル盤では、この部分も含めて
「Midnight Lightning」
と言う曲と解釈している。
ボーカルパートは無く、全編インスト

続くDisc2-9「Stone Free」
との間のドラム・ソロは、未収録

Disc2-9「Stone Free」
ほんの少しだけ、「Hey Joe」が挿入される、
今までのブート音源と同内容

CD2枚に収録された音源は、
曲間の部分やスピーチをカットする等、
編集したライブ映像とほぼ同内容の音源
になっている。
(曲間のカット・エディットの仕方CDと映像では、多少違う)

Disc1のEarly Showは、
1.から8.は、
ライブ映像と同じ流れの音源となり、
実際のセットリスト通りでは無く
映像が存在しない3曲は、
あえて最後にまとめた形になっている。

Disc2のLate Showは、
実際のセットリスト通りに収録されている
(一部、ドラム・ソロはカット)

それまで、右チャンネル寄りで、
パシャパシャした音で収録されていたドラムが、
オバー・ダブした4曲目の「Ezy Rider」で、
突然、音の輪郭がはっきりして
左右のチャンネルに音が広がるのは、
少し違和感を感じる

Disc2のLate Showを、
ドラムの音像に差が出たまま
あえてセットリスト通りに
収録しているわけだから、
Disc1のEarly Showを、セットリスト通りに、
収録することが出来なかった
のには、
ドラムの音像に差や、映像との絡み以外に、
現存するマスターテープの音源自体に、
何かしらの致命的なダメージ
有ったのかもしれない…

しかし、
Disc1の最後にまとめられた3曲を聴く限り
仮に、曲中に欠損部分などが有ったとしても
全く気にならない様に編集されている。

唯一、気になるのは、
「Hey Baby (New Rising Sun)」の、
カットされた最初の20秒程の部分
この部分の欠落が原因で、
最初の2曲「Spanish Castle Magic」
「Lover Man」
と繋げる事を断念したのか?

それなら何故「Message To Love」が本来の
「In From the Storm」と「Foxey Lady」の、
間の位置から外されなければならなかった?

まだまだ、不明な部分は残されたまま…

“音源コレクター” としては、
CD音源に関しては、Disc1も、
実際のセットリストに沿った形に
編集して欲しかったが

CD2枚の音源に関する、
若干の不満はさておき
次項では、
今回のオフィシャル・リリースの目玉
Blu-rayに収録の映像を紹介する予定…

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